無料のオンライン家計簿・資産管理ツール「マネーフォワード」を始め、ビジネス向けのクラウドサービス「MFクラウドシリーズ」などを運営している『株式会社マネーフォワード』。
同社のメインサービスである「マネーフォワード」は、大手金融機関の口座などと連携し、銀行やクレジットカード、更には証券、年金、各種ポイントサービス、マイルといったユーザーの資金・資産に関する情報を専用ウェブサイトやスマートフォンアプリで一元的に管理できるという利便性から、2012年12月のサービス開始以来着実に利用者数を伸ばし、今や400万人(2016年9月時点)を超えるユーザーが活用するサービスへと成長。
同社ではこの他にも、クラウドシステムを活用した会計、確定申告、請求書作成、給与計算ソフトなど、個人や企業の“お金”にまつわる一体的なサービスを展開し、“お金”のリテラシー向上のために日々新たな市場の開拓にチャレンジしている。
そんな同社は2015年5月、東京都港区・JR田町駅の側にある森永プラザビル本館17階にオフィスを移転し、次のフェーズに向けて新たな一歩を踏み出した。その基盤となる新しいオフィス環境について、代表取締役社長CEOの辻庸介氏にお話を伺った。
なぜオフィス環境へ投資したのか
2012年5月の設立から急成長を遂げている「株式会社マネーフォワード」。今回の移転は、エンジニアを中心とした社員たちにとって働きやすく、コミュニケーションが促進されるようなオフィス環境を実現するために実施された。加えて、お金に関するサービスを提供していることから、オフィスを通して「信頼感」が伝わるような空間を目指したという。そんな今回の移転プロジェクトの詳細とコンセプトについて伺った。
辻氏:
今回オフィスを移転した理由は、物理的な課題として会社が成長する中で人員が増えてきたという点に加え、以前のオフィスが2フロアに分かれていたので、1フロアに統合したいという点がありました。やはりフロアが隔てられていると、社員間のコミュニケーションが難しくなりますからね。また、当社にはエンジニアやデザイナーといった社員が多くいますので、彼らが最高のアウトプットを成し得るような環境を整えることを重視しました。当社のようなサービスを作る会社にとっては社員が財産そのものですので、彼らが最大限の力を発揮できるオフィスを目指して今回の移転を計画しました。
この新オフィスは会社を立ち上げて以来、4カ所目となるオフィスです。以前のオフィスも田町にあったのですが、当社のエンジニアは職住近接で会社近くに住んでくれているメンバーが多く、別の場所にオフィスを移転してしまうと、彼らも引っ越さないといけなくなるので、今回も同じ田町で場所を探しました。田町という街は他の地域と比べて落ち着いた印象があり、腰を据えてもの作りやサービス作りに打ち込める環境が整っていますし、新幹線・飛行機どちらへのアクセスも近く、個人的にとても良い場所だと思っています。
新しいオフィスのコンセプトとして、まず“マネーフォワードらしさ”を表現したオフィスにしたいと考えていました。当社はユーザーのお金や資産に関わるサービスを手掛けていますので、「信頼感」というものが伝わる空間にしつつ、一方でITのスタートアップ企業として、エンジニアの感性に響くようなテクノロジーの要素も感じられるオフィスにしたいと思いました。信頼感が伝わる空間でありながら、金融機関のような堅い雰囲気ではなく、ややエッジがあって生産性の上がるオフィスを実現することが今回の大きなテーマでした。こうしたコンセプトは社員たちと一緒に練り上げていきました。
デザイン面では“マネーフォワードらしさ”をベースに、ベンチャー企業ということで、あえて成長途中のイメージを取り入れつつ、シンプルで誠実さ、温かみが感じられるオフィスにしました。機能面では生産性を上げるため、エンジニアのメンバーが働きやすい環境にこだわり、執務スペース以外に誰でも自由に使えるフリースペースを随所に設けています。当社はサービスの性質上、高いセキュリティーが求められ、パソコンなどの端末を社外に持ち出すことはできませんが、社内では自由に場所を選べるようにすることで集中力を維持しやすく、また人が動くことで自然とコミュニケーションが生まれるオフィスになっています。
オフィス環境変革後の変化や反響
“マネーフォワードらしさ”というコンセプトに基づき、様々な要素を詰め込んで具現化された今回のオフィス。社員の意見を取り入れながら今まで以上に生産性が向上する環境を整え、また外部からの来訪者には企業としての誠実さが伝わるようなオフィス環境を目指した。今のオフィスへ移転後、社内外でどのような変化や反響があったのだろうか。
辻氏:
まだ移転して間もないので体感にはなりますが、明らかに社員たちの生産性が上がっているように感じますね。決して華美ではありませんが、大事なポイントを押さえたバランスの良いオフィスに仕上がったので、オフィス環境に対する社員の満足度も高いようです。ある社員は「ここに来てから、自分は生産性が3倍になりました」と言っていましたね(笑)。
オフィスは1日の大半を過ごす空間ですので、そうした社員の満足度も大切だと思っています。また、ここは森永製菓さんのビルでして、13階に同社が運営している食堂があるのですが、その反響も意外と大きかったです。入居している他の企業にも開放されていまして、健康的なメニューがリーズナブルな価格で食べられることから、当社の社員たちにも人気です。
今のオフィスの特徴として、中央にあるステージ上のフリーアドレスエリアをはじめ、各所にフリースペースを設けているのですが、それらもよく活用されています。それぞれの好きなスタイルの使い方があるようで、個性が見えて面白いですね。特にファミリーレストランのようなシートのミーティングスペースは人気です。一方で、各自の荷物が置けるようにロッカーも用意したのですが、こちらはあまり使われていないですね。家が近いエンジニアたちなど、手ぶらで出社する社員も多く、この点は少し誤算でした(笑)。
また中途入社で来た社員が言っていましたが、当社には“紙”がないと驚いていました。ベンチャーなのでスピード感が速いということもありますが、コミュニケーションもチャットワークが中心ですし、書類もほとんど電子化されているので、他の業種と比べるとペーパーレス化が進んだオフィスになっているのかもしれません。
外部のお客様には「テレビや映画に出てくるようなオフィスですね」と言われることが多いです。業界にもよるとは思いますが、銀行のお客様などは、バランスボールに座って仕事をしている自由な様子を見て驚かれますね。そういう意味では当初のコンセプトの通り、クリエイティブな空間でありながら誠実さが伝わる、バランスの取れたオフィスになっているのかなと思います。
新たな交流を生むオフィス空間
新たなオフィスは1フロアになったことで開放感が生まれただけでなく、空間としての広さや利便性もこれまでのオフィスと比較し大幅に向上した。こうしたオフィス空間を活用し、同社では移転後から様々な企画やイベントを次々と開催している。今のオフィスは社内外において、“新たな交流を育む拠点”としての役割も果たしているようだ。
辻氏:
私たちは クラウド上で会計・確定申告・請求書作成・給与計算などが簡単にできるサービスも提供していまして、個人事業主や中小企業、税理士の方まで様々な方にご活用いただいています。先日、そうしたユーザーである税理士のお客様をご招待し、今のオフィスに来ていただきました。80名近くお集まりいただいてとても盛り上がり、当社のエンジニアたちも普段あまりお会いできない税理士の方々と交流することができて「すごく刺激になりました」と言っていました。
どのようなサービスが求められているのか、ユーザーの生の声を聞くことも改めて大切なことだと感じましたね。今のオフィスであれば、そうした機会を積極的に設けることができます。
また新しいオフィスに移転してから初となる社員総会を開催したのですが、その後に「ファミリーデー」という形で社員の家族の皆様もお招きして交流を楽しみました。これも今のオフィスだからできたことで、非常に良いイベントだったと思っています。今のオフィスを活用して、これまでできなかった新しい活動を生み出すことができるようになったので、今後も様々なイベントを企画していきたいですね。
今後取り組みたいオフィス環境づくり
今回の移転で、生産性の向上に繋がる快適なオフィス環境を実現した「株式会社マネーフォワード」。今後も社員を中心に考え、各自の能力が発揮しやすく、コミュニケーションが活発化するようなオフィス環境作りに注力していく。
またユーザーに寄り添うサービスを提供する会社として、社内にいながらエンドユーザーのことが感じられる仕組みを導入するアイデアもあるという。快適でストレスレスなオフィスにより生産性を追求し、同社は更なる飛躍を目指す。
辻氏:
当社は人材こそがすべての会社なので、今後も社員の可能性が最大限に発揮できるようなオフィスを追求していきたいです。人が働く上で、様々な要素によってその潜在能力が制限されるケースがよくありますが、周囲の環境もそうした要因の一つだと思いますので、今以上に各自のクリエイティビティが発揮できる環境を整えたいと思います。また、会社は個人だけでなく全員のチームワークによって成り立つものですので、チームで動く上でコミュニケーションがしっかりと図れる環境作りを進めていきたいですね。
今のオフィスは今後の人数増加を見越して、拡張性も確保しています。現状はスペースに余裕があるので楽に感じますね。私個人としてはあまり空間にこだわりがある方ではなかったので、起業した当時はワンルームの事務所で1個のデスクに2人で座っていたこともありましたが、今は広くて余裕がある分、前のオフィスと比べてストレスが軽減され、疲労が少ない気がします。人が快適に過ごす上では、やはりある程度の広さが必要だと感じています。効率性ばかりを重視して限られた空間に人を詰め込んだら、逆にアウトプットは減少してしまうと思いますので、これからも快適性は維持していきたいですね。
私は以前証券会社にいたことがあるのですが、そこではお客様の取引が成立した際、社内に「チャリチャリチャリーン」という音が鳴り響くんですよ。マーケットに動きがあると取引が増大し、音が鳴りっぱなしになるのですが(笑)。ただこの仕組みはユーザーの動きをダイレクトに感じられて面白いので、将来的にはこうした仕組みを当社のオフィスでも実現したいですね。現在も中央にプロジェクターを置いて各サービスのアクセス数などを表示してはいるのですが、様々な工夫を重ねてユーザーの声をすぐに知ることができたり、サービスを開発しているエンジニアがユーザーをより意識できるオフィスにできればと考えています。
Pick Up “ここが、マネーフォワードらしさ”
■「MokuMoku Room」と「もくもくタイム」
マネーフォワードの新オフィスには、「MokuMoku Room」と名付けられたスペースがある。室内は基本的に図書館のように会話禁止で、その名称の通り“もくもく”と各自の仕事に集中するための場所だとか。中は個室のように使える集中ブースやソファ席、また靴を脱いで作業ができるカーペットスペースも完備している。また「MokuMoku Room」だけでなく、14時~15時までの1時間を「もくもくタイム」と定めて、会社全体としてなるべく会話を控えて自分の業務に集中する制度を実施している。こうした環境を整えることで社員のアウトプットを最大化させ、生産性の向上に繋げている。
■社員間のコミュニケーションを促進
同社には運動系・文化系を問わず、様々な部活動があるという。テニス部、ボルダリング部、バスケ部、料理部などに加えて、業務上金融の知識が豊富な社員も多いことから株式・投資部もあるのだとか。また新しく入ってきた社員の座席にはしばらく風船が付けられ、皆と交流するきっかけ作りを行っているほか、1カ月ほどかけて各部署の全社員と一緒にランチを食べる「ウエルカムランチ」という機会も設けているという。そして、毎朝開催している「朝会」では、業務上の連絡事項を共有するほか、持ち回りで5分間誰かがプレゼンテーションをする時間を取っている。その内容は仕事と関係ない話題でもよく、自己紹介をはじめ出身地や趣味の話、ちょっとした小ネタでもいいのだとか。こうしたコミュニケーションを深める取り組みにより、日頃から社内のチームワークを育んでいるという。
代表取締役社長CEO 辻庸介氏
Creator’s Eye 株式会社SIGNAL / 代表取締役 徳田純一氏 新海一朗氏
今回のオフィス移転にあたり、マネーフォワード様からは「お金を扱う会社としての信頼感とベンチャースピリットの両方を感じられるオフィスにしたい」というご要望がありました。その上で、執務エリアに関しては広いワンフロアで一体感が感じられるように、また来客エリアについては特殊な排煙方式を意識して部屋のレイアウトを考えて欲しい、というリクエストがありました。
それらを踏まえながらビルの特性を活かすことを考え、来客エリアと執務エリアのゾーニング、倉庫やリフレッシュエリア、集中作業エリアの位置が自然と決まりました。その中でビル内に点在する大きな柱や窓際の排煙機など、細かい条件を整理して平面プランを確定しました。意匠に関してはマネーフォワードらしい空間のテイストを具現化するため、写真を見ながらイメージを擦り合わせた上でデザインをご提案しました。家具も全体イメージを共有後にご相談しながら選定しています。
今回は窓際の数少ない排煙機から排煙するというビルの特性があり、その条件に合わせて会議室をレイアウトするのに苦労しました。またスケジュールがタイトで、デザインプレゼンテーションが1回で納得いただけないと移転に間に合わない状況でしたので緊張感がありました。今のオフィスについて、担当の方から各方面でとても評判が良いと伺っています。また、社員の方々にもオフィスを万遍なく使ってもらえているようで、機能面でも評価いただけているのかなと思います。