今や20~30代の女性の多くが利用する日本最大の料理レシピサイト「クックパッド」を運営しているクックパッド株式会社。
「毎日の料理を楽しみにすることで、心からの笑顔を増やす」という経営理念を掲げ、1998年より料理レシピの投稿・検索サイトを立ち上げた。現在ではその成長と進化は止まることを知らず、2014年12月現在の投稿レシピ数は190万品を超え、月間のべ5,000万人以上に利用されているサービスとなっている。その成長の原点は、経営理念にもある「毎日の料理を楽しみにする」ことへの挑戦だったとのことだが、その挑戦は今や日本を飛び越え、「“世界中の”毎日の料理を楽しみにする」という新たな目標へと飛躍的に進化している。
人間が生活していくための基礎となる衣食住の“食”の部分を担う生活インフラの一つとして、今や多くの人にとって欠かせない存在になりつつある同社のサービス。1998年の立ち上げから16年、「クックパッド」を日本を代表するサービスの一つにまで成長させた同社が考える“オフィス環境”とは。インテリアデザイナーの経験を持つ、人事部ワークプレイスグループワークプレイスプロデューサーの梶尾俊氏よりお話を伺った。
なぜオフィス環境へ投資したのか
2014年9月に白金台から現在の恵比寿へとオフィスを移転したばかりの同社。料理レシピサイト「クックパッド」の企画・運営だけでなく、有料会員事業や広告事業、更には特売情報・EC・ダイエット・乳幼児向けのサービスなど、今やレシピに留まらないサービスの展開により、新たな生活シーンでの利用者を継続的に増やし続けている。その月間利用者数は2014年10月の時点でのべ5,033万人にものぼり、前年同月比27.1%増という数字から見てもサービスが勢いよく拡大し続けていることが窺える。そんな同社がオフィス環境に投資をした理由とは。
梶尾氏:事業拡大に伴い従業員が増加したからという物理的な面もありますが、従業員が増加したことで、所属部門が異なる従業員同士のコミュニケーションが取りづらくなってきました。また、以前の白金台のオフィスは3フロアに分かれていたということもあったので、単純にフロアを追加するのではなく、全ての機能をワンフロアに集結した“ワンフロアオフィス”への移転構想が進展しました。“コミュニケーションの活性化”が今回の移転の一番の目的でしたね。2013年後半から具体的な構想が始まりましたので、およそ1年かけて今回の移転を実現しました。
また、クックパッドの顔ともいえるキッチンも、規模・機能共に拡大してオープンしました。“食”を軸にしたコミュニケーションを図るための設備も順次稼働し、個々のパフォーマンスを最大限に引き出すオフィスとなっています。
オフィス環境変革後の変化や反響
今回お話を伺った梶尾氏は、インテリアデザイナーとして内装や設計の経験をお持ちであったため、今回プロジェクトリーダーとして移転に伴う全てを担当されたという。全ての企業にこういった経歴を持つ社員が居るとは限らず、むしろその可能性はかなり低いと言える。ほとんどの企業のプロジェクト担当者は見様見真似で社内外から必死に情報を収集し移転や改装を行うことが多いが、その点同社は専門的な知識と経験の両方を兼ね揃えた梶尾氏が指揮を執り、クックパッドで働く社員だからこその視点も取り入れ、同社ならではの新たなオフィス環境を作り上げた。経営陣と社員の両方の意見も集約しながら作り上げたというこのオフィスについて、社内外からはどのような変化や反響があったのだろうか。
梶尾氏:まず、予約無しに使えるミーティングスペースとして「コミュニケーションボックス」が設置されたことで、打合せを早く切り上げたり延長したりすることが臨機応変にできるようになり、時間を効率的に使えるようになったという声がありました。また、移転前のオフィスから継続して設けたソファを配したフリースペースに加え、縁側をイメージしたスペースを設けたところ、靴を脱いでくつろげる空間になっているのでとても居心地が良く、人によっては自席よりも業務に集中できているという話も聞いています。
そして、クックパッドの顔とも言える大きなキッチンとラウンジが、エントランスからガラス越しに広がることで、来訪者にクックパッドが“食”をテーマに事業を展開していることが一目で伝わると同時に、キッチンに立つ社員の姿から“料理の楽しさ”を感じていただけているようです。
キッチンを中心に広がる機能的なオフィス
最近ではオフィス内にキッチンを設け、社員の自炊やコミュニケーションの活性化を促す企業が増えてきているが、ここまで大きなキッチンをオフィス内に構える企業はおそらく他にはないだろう。それもそのはず、これは“食”をテーマに事業を展開している同社だからこそ成り立つオフィスの在り方であると言える。エントランスに足を踏み入れると、まずその大きなキッチンと明るいラウンジが目に飛び込んでくる。この開放感溢れる同社の“顔”であるキッチンを中心に広がるオフィスのこだわりのポイントを伺った。
梶尾氏:仕事場として、自席だけでなくフリースペースやキッチン&ラウンジを選べるという旧オフィスにも存在した機能を継承しつつ、それらをより生産的に活用できるようにしました。
「コミュニケーションボックス」をオフィスの随所に設置し、思い立ったときにすぐ自席の近くで打合せができることで、社員が時間と空間を有効に活用できるようにしました。また、食に関する様々な書籍や雑誌の最新刊を備えた「ライブラリー」を今回新たに開設しました。こちらは、靴を脱いで自由な姿勢で読書や作業に集中できるスペースというだけでなく、社内向けのプレゼンテーションスペースとしても活用でき、社内に活気を生み出す場としても機能しています。広々とした開放的な空間が、アイデアの創出を促します。
そして、新オフィスでは大きなキッチンとラウンジがエントランスからガラス越しに広がるよう設計をしました。全面ガラス張りになっているため、社員が料理を楽しむ姿を来訪者の方々にも肌で感じていただけます。加えてカウンタースペースを増やし、キッチンとラウンジの一体感も高めたことで、従来よりも「人が集まるキッチン」としての機能を強化しました。
また、動画コンテンツを始めとする新たなサービス作りを推進するべく、新たに2つの撮影用キッチンも開設しました。
今後取り組みたいオフィス環境づくり
2014年9月に移転をしたばかりの同社だが、事業の拡大に伴い今後も従業員数の増加が予想される。従業員が増加することで、所属部門が異なる従業員同士のコミュニケーションが取りづらくなるという経験をした同社は、“コミュニケーション活性化”のための施策を随時オフィス環境に反映させるべく、現在も試行錯誤しているという。そんな日々進化中の同社が、今後取り組みたいオフィス環境づくりとは。
梶尾氏:今回の移転は、移転して終わりではなく、オフィスの設計者として社内にいる事で改善をし続けて行く事が大事だと思っています。 シンプル且つ機能的な動線を意識しながら、「コミュニケーションの活性化」につながるオフィスづくりは、今後も常時取り組んで参ります。サービスだけでなく、オフィス作りにおいても、使用方法やルールがぱっと見てわかるように意識していますので、旧オフィスで会議室のルールを文字とイラストを組み合わせて表示していたように、例えば、キッチンでのゴミの分別といった細かな点や、共有スペースの使用方法など、新オフィスでも様々なところの“アイコン化”をこれまで以上に進めて行く予定です。コミュニケーションが活発になればなるほど、物理的に従業員同士が共有する部分も増えるので、全従業員に周知徹底できる分かりやすいルール作りが大切だと考えています。
また、11月初旬に「キッチン共用カメラ」を新たに設置し、キッチンで料理をしている姿や、できあがった料理、またそれを楽しく食べている姿を気軽に撮影するだけで社内のサイトに自動でアップロードできるようになりました。この取組みは、より楽しくコミュニケーションを図るために社内の有志が考案したもので、このように社内からオフィス作りの良い要素が生まれるような活気のある環境をこれからも作って行きたいですね。
Pick Up “ここが、クックパッドらしさ“
■開放的なキッチン&ラウンジ
エントランスを入るとすぐにそこに見えてくる開放感溢れるキッチン&ラウンジ。このキッチンには新鮮な食材が常備されており、社員はいつでもそれらを使って自由に料理をすることができる。取材に伺った時は、早朝だったにも関わらず社員の皆さんがすでに料理を始めており、食欲をそそる香りがラウンジ全体に漂う中、朝食を食べながら朝ミーティングを行っている方々も見受けられた。
同社にはエンジニアも多く在籍しているが、広報の方曰く、「エンジニアは器用な方が多いので、料理の上手な方が多いんです!」とのこと。また、バレンタインにはワークプレイスグループがチョコレートを仕入れ女性社員が男性社員に手作りチョコを贈るそうだが、「お返しのホワイトデーで男性社員が作るものの方が、凝っていて立派なものが多いんですよね…」と笑いながら教えてくれた。この話からも、同社には男女問わず本当に料理が好きで、料理を楽しんでいる社員の方々が多いということが窺える。このように、社員の方々が楽しそうに料理をする姿が見れるキッチンはまさに同社の“顔”とも言えるエリアである。
■キッチンを囲む社内行事
キッチンを取り囲む様に広がるラウンジでは、コミュニケーション活性化を図るべく社内イベントも数多く行われているという。例えばハロウィンパーティーやボジョレーヌーボーパーティー、たこ焼き祭りやさんま祭りなど、他にも様々なイベントがあるとのことだが、基本的に社員誰でも参加できるようランチタイムや就業時間後に行われているとのこと。社内イベントを行う企業は多々あるが、クックパッドらしいのは、それらのイベントの中心にはいつも“食”があるということだ。一度一緒にご飯を食べに行ったり、飲みに行ったりすると距離感がグッと縮まるとは良く言うが、それがオフィス内で体現できるのは、やはり会社の顔であるこのキッチンがあるからだろう。