今年、第27回日経ニューオフィス賞を受賞した『Sansan株式会社』。2007年創業以来、世界初の名刺管理クラウドサービス「Sansan」の企画・開発・販売を行うだけでなく、50万人以上のユーザが利用する名刺管理アプリ「Eight」を開発するなど、法人向けのみならず個人向けにもサービスを展開している同社。最近ではそのCMも話題となり、今年6月にはギャラクシー賞を受賞。単なる名刺管理サービスに留まらず、「ビジネスの出会いを資産に変え、働き方を革新する」ことを企業ミッションとして積極的に取り組んでいる。メディア注目度も高まるSansan株式会社のオフィス環境作りに込められた想いとは。CWO(Chief Workstyle Officer)角川素久氏よりお話を伺った。
なぜオフィス環境へ投資したのか
CWO(Chief Workstyle Officer)という日本でも例のない役職を設けている同社。「ビジネスの出会いを資産に変え、働き方を革新する」というミッションを掲げる自分たちの働き方をも革新しようと、これまで行ってきたことを経営レベルで継続的に取り組むため、昨年正式にこの役職を設けたのだそう。同社の働き方は、本田直之著『あたらしい働き方』の中で“日米のユニークな働き方を行う企業20社”の一つにも紹介された。現在青山に構えるオフィスへは、2014年3月に移転したばかり。同社の掲げる理想の働き方は、オフィス環境にどのように投影されたのだろうか。
角川CWO:移転のきっかけは、人が増えてフロアが狭くなったからというのが一番の理由です。ワンフロアで足りなくなったのでフロアを追加して使用していましたが、フロア移動も大変でしたし、コミュニケーションも取りづらくなったので引っ越そうと。オフィス環境は単に「働く場」ではなく「働き方」の一環と考えています。会社の生産性などにダイレクトに関わってくるので、普通総務部などが主幹するところを弊社では私が率先して環境作りに取り組んでいます。普段は人事、広報以外には神山ラボ(徳島県の神山町にあるサテライトオフィス)の管理やそこでの働き方、環境作り、社内制度、社員のコミュニケーション活性化を図ることに努めています。
オフィス環境作りで大切にしていることは、「インナーブランディング」です。既存のカテゴリーで表現できない不思議な感じや、デジタルとアナログのように相反する物が一緒くたになっている状態を社員が“Sansanぽいね”と感じられることが大切なのではないかと。働く場所やスタイルが多様にあり、その時々で気分を変えながら仕事ができるということも大きな特徴と言えます。
オフィス環境変革後の変化や反響
環境が変化したことにより、社内外において予想以上の反響があったという。中でも日経ニューオフィス賞受賞については特にPR効果を狙ったわけではなかったそうだが、結果的に多くの評価を受け、採用面でも大きくプラスに働いたようだ。そのような反響の渦の中、社内や社員たちの間ではどのような変化があったのだろうか。
角川CWO: 社内アンケートなどは特に取っていませんが、直接話を聞くと反応はいいですね。以前と比べて格段に居心地はいいと私自身も感じています。移転してからまた人が増えて密度が高くなってしまいましたが、満足している人も多いのではないでしょうか。
そして、移転による最も大きな変化は、「社外とのコミュニケーション」ができるようになったことです。これは以前はなかったことですね。通常の執務スペースとは別に設置した緑溢れる「Garden」(フリースペース)内で、社外の方が来られるようなエンジニアや広報向けの勉強会を行ったりなど、今ではオフィスが外部とのネットワーキングのツールになっていると思います。面接にいらした方にはオフィス案内も行ったりしていますね。また、社内懇親会もこのスペース内で行い、コミュニケーションの活性化を図っています。
コンセプトは “We Are Sansan ”
“Sansanらしさ”を体現したオフィスの大きなポイントとして、「働き方の革新」と「デジタルとアナログの融合」という二点が挙げられる。同社の名刺管理クラウドサービス「Sansan」「Eight」も表が“IT”で裏が“人”(手作業で名刺情報を入力しているため)ということもあり、特に「デジタルとアナログの融合」という部分を表立ってオフィスのデザインにも組み込んでいるように窺えた。そして、この二項対立を会社の顔であるエントランスでもうまく表現することにより、来訪者に対し非常に強いメッセージを放っているようにも感じた。
移転前の市ヶ谷オフィスに続き、今回も社内の設計からデザインに至るまでの全てを一任された須磨設計の代表、須磨氏の表現する”Sansanらしさ“とは。
角川CWO:移転時に設計事務所5社でコンペを行いました。デザインのリクエストはざっくりしていて、「多様な働き方ができるように」ということと、「見たことがないデザインのオフィスにしたい」ということを要求しました。当社は革新的なサービスを提供している会社なので、どこかのモノマネは嫌だったんですね。コンセプトは『We Are Sansan』で、“らしさ”をオフィスで体現しようという狙いがありました。社員が増えると、昔から大事にしてきた価値観や企業文化が薄れてくるので、その一体感をもう一度高めようという意識づけをしたいというリクエストに対し、ずば抜けた提案をしてきてくださったのが須磨一清さんでした。他社の提案は完璧な模範解答でしたが、感動まではなかったんです。その点、須磨さんは僕らが認識していなかった部分をも汲み取って提案をして下さったんです。
そんな須磨さんに手掛けてもらったオフィスの中での一番の売りは、やはり「Garden」(フリースペース)です。Sansan神山ラボでやっていることがここでもできるよ!ということを表現した空間になっています。ハンモックや屋根裏スペースがあったりと、様々なスタイルで多様に仕事ができることが特徴です。また、ここにある植物は全て「そら植物園」の西畠清順さんにお願いしました。須磨さんがTV番組で西畠さんを知って、「是非一緒に仕事をしたい」と申し出られたんです。名刺のデザインが各々異なるように、植物も一人一人違って個性があるので、そういう意味を込めてあえて種類を統一せずに世界中の珍しい植物を選んでいただきました。
今後取り組みたいオフィス環境づくり
2014年3月に移転したばかりのまだ真新しいこのオフィス。
その革新的なサービスが話題となり注目を集めているだけでなく、“Sansanらしさ”がぎっしり詰まったこのオフィスでは、1年も経たずして社員が急増。すでに人口密度が高くなってきているという。そんな中、働き方の最高責任者であるCWOが考える、今後取り組みたいオフィス環境作りとは。
角川CWO:人が増えると最初のコンセプトはどうしても崩れてきます。油断するとバラバラになり、当初意識していたものと違うものになってしまうので、フロア増設などもそこを考慮しなくてはいけません。オフィスは完成品ではなく常に成長していますから、社員の成長と共に引き続き調整を加え、更に成長させていけたらいいなと思っています。
Pick Up “ここが、Sansanらしさ“
■サテライトオフィス / Sansan神山ラボ
社内制度の一環であるサテライトオフィス。ここ4年程施行されている、エンジニアの創造性を高めるために設けられた。テレワーク推進賞を受賞。新入社員研修もここで行い、常識に囚われない働き方を体験してもらう場となっている。近年政府も地域活性に力を入れ始め、先日地方創生担当の小泉進次郎政務官が視察に訪れたことでも注目されている。
■「そら植物園」の個性的な植物たち
「Garden」スペースを魅力的に飾る主役級の立役者、それが「そら植物園」の希少植物たち。“Sansanらしさ”を具現化すべく設計士の須磨氏からのラブコールを受けた西畠清順氏は、明治元年より150年続く花と植木の卸問屋「株式会社 花宇」の五代目。日本全国・世界全大陸を旅し、収集・生産している植物は数千種類にも上る。日々集める植物素材で、いけばな・フラワーデザイン・室内緑化・ランドスケープなど国内はもとより海外からのプロジェクトも含め年間2000件を超える案件に応えている。
そんな中、2012年1月より、ひとの心に植物を植える活動 “そら植物園”をスタート。植物を用いた様々な企画や案件にトータルで応える植物専門のコンサルティング業務を通じて、一人でも多くのひとに植物の本当の魅力を感じてもらえるようなきっかけをつくるべく、各地で多数の企業・団体などと植物を使ったプロジェクトを数多く進行している。
Creator’s Eye 須磨設計 / 代表 須磨一清氏
須磨氏:Sansan様は移転前の市ヶ谷オフィスも手掛けさせていただいたので、都内で手掛けたオフィスとしてはこの青山オフィスが二作品目となります。ずっとアメリカの設計会社に所属していたので、帰国後に独立して手掛けた案件としては市ヶ谷オフィスが初めてでした。
角川さんとは以前から面識はありましたが、今回の移転プロジェクトの際に、「働き方を変えたい、新しいことをしたい」とのことでご相談を受けたので、これは腹を割って話さないといけないな…と。「本当はこう思ってるんじゃないの?」というところまで徹底的に聞き出すことに一番時間を費やしましたね。最初のイメージが掴まるまでは、ああでもないこうでもないとダラダラ時間を費やすよりも、一度きりでもいいのでとことん腹を割って話そうと。それがあったからこそ、結果的に良い形になりましたね。
お互いに一度イメージが決まってしまったら、後の工程は早かったです。西畠さんも初回の打合せでイメージを瞬発的に把握してくれ、そして提案していただいたものは、こちらのイメージのさらに一歩先を行くものでした。「容器も植物と同等に、個性的に」というリクエストには、西畠さんが幼少期に実際使われていたおもちゃ箱、各国で集められた陶器たち、といった極私的なものたちを提供してくれています。こうした引き出しが結果的に”らしさ”の追求につながったかもしれません。
時間と予算の限られた中でやるからには、全てにおいて分かりやすく、伝わりやすいデザインにすることを意識しました。分かりやすい=使いやすいということですからね。「一番こだわった所はどこですか?」と聞かれたら「全部です」と答えられるほど全てにおいてこだわったので、全部くまなく見て頂きたいです。