IT企業やクリエイティブな企業も多い街、恵比寿。恵比寿ガーデンプレイスへと繋がる「恵比寿スカイウォーク」を歩き始めるとすぐに、お馴染みの“クマ”の広告が現れる。2012年に恵比寿ガーデンプレイスタワーへ移転し、2014年9月には同ビル内にてオフィス規模を2倍に増床した移転を行った『株式会社コロプラ』。「エンターテインメントでネットとリアルを繋ぎ、世界中の日常をより楽しく、より素晴らしく」をモットーとし、スマートフォンに特化したアプリ開発・運営を主軸に事業を展開している。バーチャルな世界を提供するだけでなく、リアルな日常生活に彩を添えること、そしてバーチャルな世界に留まるのでなく積極的に出かけてもらい、新たな出会いへと繋げたいという信念を掲げている。インターネットの新しい価値を生み出そうとするコロプラの、オフィス環境作りに対する思いを副社長の千葉功太郎氏より伺った。
なぜオフィス環境に投資したのか
2003年5月に代表取締役社長の馬場功淳氏が個人で始めた『コロニーな生活』。携帯電話の位置登録機能を利用した位置情報ゲームのパイオニアとして、口コミで全国からファンを集めた。その後、より安定したサービスを提供するべく2008年10月に法人化。提供サービスが増え、社員数も拡大していく中、オフィスに「遊び」の要素を多く取り入れようと考えた経緯とはどのようなことだったのか。
千葉氏:創業から5度目の引っ越しとなりますが、理由は単純に狭くなったからです。最初は上野の方で、それ以降はずっと恵比寿に拠点を置いています。大人っぽい雰囲気があり、交通の便もよく、入居当時はIT企業も少なかったので良さそうだなと思ったんです。前回の引っ越しの際は、企業としての知名度がそれほどなかったのに、随分と立派なビルに引っ越して来てしまったということで、自戒の念を込めて質素にしようじゃないかと。そのオフィスから比較すると、現在のオフィスは大分立派です。今回は5年先を見据えて、「こんな企業で働いている自分たちになりたい」という気持ちでオフィスを作ることにしました。“背伸び”は一つのテーマかもしれません。社員には、「今我々はここには相応しくないかもしれないけど、頑張ってこのオフィスに相応しい会社になっていこう」と社長が引っ越し初日に全社員に向けて言っています。ですので、以前の比較的質素で機能的な面とは真逆で、今回はだいぶ遊びの要素を作りましたね。
オフィス環境変革後の変化や反響
クリエイターが社員のおよそ8割を占める同社。多くのクリエイターが一日の大半を過ごすオフィスでは、日々彼らの様子を垣間見ることができるため、彼らの日常の行動そのものがフィードバックとなる。社員目線で設計された“創造性を発揮できる環境”が変えた、社員の働き方とは。
千葉氏:不満の声が聞こえてこないので、良い環境と言えるのではないでしょうか。社員満足度は高い気がします。クリエイター集団なので、社風が比較的ストイックな職人気質なんですよね。ですので、今回はあちこちに「逃げ場」を設けました。リフレッシュルームは以前からありましたが、「逃げ場」としての役割があまりなかったんです。その反省を活かし、今回はかなり意識してリフレッシュスペースを作ったので、しっかりと活用されているようですね。
それから、シナリオライターさんが集中してシナリオを書く時に使ってくれたらいいなと思って、少し暗めで壁に向かって集中できるような部屋を作ったんです。先日この部屋の前を通ったら、一番奥でシナリオライターさんが作業していたのを見て、やったーほんとに使ってる!と思って嬉しかったですね。
クリエイターがオン・オフできるオフィス
今回インタビューを行った会議室は、着席で30名ほどが収容可能な重厚な雰囲気漂う大会議室だった。以前の内装や什器をそのまま活かしているこの会議室は、かつての風貌を残しつつも現在は所属クリエイターの作品が展示されており、コロプラらしさがうまく付加された仕様となっている。どちらかというと固めな印象のお客様エリアとは対照的な、遊び心溢れる社員エリア。この好対照な設計の意図とは。
千葉氏:今回のコンセプトは、お客様のいらっしゃるエリアと社員が使用するエリアを完全に分けたことですね。このフロアには元々、外資系の証券会社さんがいらっしゃったので、会議室エリアは金融系っぽい雰囲気の中にどうやって“我々らしさ”を出していくかという課題がありました。一方で社員エリアは、楽しくてクリエイティブで、社員目線で何かおもしろいことが考えられそうな雰囲気に、と完全に区切ることを最初から計画していました。デザイナーさんと出会ってから入居まで、約半年というスピードで完成させました。
また、今回は社員アンケートからの吸い上げを行ったことが非常に大きかったですね。実際に使っていないと分からないような細かいところですけれど、弊社では2つ前のオフィスから立って会議をする文化があるので、そのミーティングスペースと執務机との距離感や、執務机の席幅、背中合わせに座った時の通路幅など、社内アンケートを取って変えてほしいところ上位をリストアップして、そこから程よい距離を割り出して調整をしました。限られた容積の中で社員の満足度も考慮しないといけない…ギリギリのせめぎ合いでした。
Pick Up “ここが、コロプラらしさ”
■本格的なマッサージルーム
福利厚生のうち、マッサージルームがアップグレードしたそうだ。その名も『Kuma SPA』。国家資格を持つプロのマッサージ師(社員)が常駐し、社内で予約をすると就業時間中に無料で施術を受けることができる。社員一人一人のカルテを作り、カウンセリングをして長期的に通ってもらうことで、悪いところ(肩こり、腰痛等)を治療していこうというコンセプト。単純に一時的なリフレッシュに留まらないというところが特徴だ。現在は予約待ちが出るほどの人気なのだそう。
■健康促進のためのフルーツやサラダを提供
もともと、『コロニーな生活』(位置情報ゲーム)と提携する日本全国の名産品店を開拓するために商品をお取り寄せし、全社員による試食会をたびたび開いていたとか。物によっては調理をする必要もあるため、設備の整ったキッチンが必要だった。そのため、昔のオフィスから今も変わらず社内にはキッチンがあり、自炊する社員も多いのだそう。
一方で、一人暮らしの若い社員も多く、食生活が偏りがちになる心配もあるため、朝はフルーツビュッフェ、お昼には有機野菜で作ったサラダやお惣菜などが並ぶランチミニビュッフェを提供している。これらを食べて栄養バランスを整えてもらうことで社員の健康をサポートしている。
しかし、これらは全てインセンティブ。過去の先輩方の功績があるからこそ、今こうやってフルーツビュッフェやランチミニビュッフェが提供されたり、自由に飲める自動販売機が備え付けられたりしているのだということを、社員にはよく教育するのだそう。また、「今度はあなた方がこの制度を増やす側に回ってね」という期待を込めたメッセージも同時に伝えるという。同社の社内制度が新たに追加される日もそう遠くはなさそうだ。
Creator’s Eye デザイン:株式会社コロプラ / あっきー氏 、設計:三井デザインテック株式会社 / 三浦 圭太氏
あっきー氏:普段私はゲームのデザインを担当していますが、移転の際に三井デザインテックの三浦さんと協力して、内装のデザインに携わりました。引っ越しに際してテーマを二点挙げ、そこを軸に動きました。まず一つは「5年後を見据えた“背伸び感”のあるオフィス」、もう一つは「クリエイターのためのオフィス作り」です。お客様がいらっしゃる外部エリアと社員が働く執務エリアが分断されたので、三浦さんと一緒に一つ一つ細かい部分を詰めていきました。また、以前のオフィスの不具合を直して使いやすいものにしなくてはならなかったので、コロプラの社員目線でしか分からない不具合を分かって頂くことにかなりの時間を費やしました。
以前のオフィスと大きく変えたところは、リフレッシュするスペースを転々と設置したところです。コロプラの社員というのは職人気質で、ずっと集中して作業し続けるようなところがあるんです。そういう人達にこういうスペースは果たして馴染むのか…という懸念はありました。今までそういう使い方をしていた社員がいなかったので。ここにイスを置いたところで座ってくれるのかな…と思いきや、座ってくれているんですよ。そこでコミュニケーションを取り合ったり、打合せをしたり。今までは仕事をしていて集中力が切れると、その場で寝るか休むという選択肢しかなかったのが、リフレッシュスペースを使って脳をリフレッシュさせるという新しい手法を自ずと見出してくれているので、ホッとしています。
三浦氏:スケジュールがタイトだったこともあり、週に二回は打合せをしていましたね。「はじめまして。」から3フロアのレイアウトを決めるまでがわずか一か月くらいで・・・。
これまでの経験上、オフィスを作るのにここまでの強い想いを持っている企業様はなかなかありませんでした。コロプラさんは「こういうことがやりたい!」という具体的な‘本気のこだわり’があったので、そこをどう具現化させていくかという点が大変で、常に試されているところはありましたね(笑)。
細部までこだわる部分と、大きな視点で見る部分とを何度も詰めて打合せをしましたが、中でも特に、「空間の成り立ち」を決めるのに一番時間をかけました。時間をかけてそれぞれの空間の役割を設定し、それを具体的に落とし込むことに注力しました。
実はコロプラさんに一日入社をしたんです。ものづくりに対する基本的な姿勢は変わらない同じクリエイターとはいえ、業態が全く違うので“働き方”が見えてこなかったんです。それが解らないと良い提案もできませんからね。この一日入社は千葉副社長もご同席の場で決まったのですが、「入社してみたらどうですか?」と言われた30分後にはメールアドレスが決まり、翌日には人事にも手配済みという素晴らしいスピード感でした(笑)。また、入社当日にはきちんと担当部署に配属され、パソコンの画面には「ようこそコロプラへ。三浦圭太様」という表示もされていましたね。こうして実際の業務を通して社員の方々と接してみることで、社内の雰囲気だけでなく「コロプラという会社で働くということ」が解り、やはり外から見ていただけではわからない内とのギャップを知ることができました。
クリエイターの方々は本当に職人気質でいらっしゃるので、ものすごく集中されるんです。一方でその方々がいかにコミュニケーションをとりやすくするかが課題だったので、元々社内文化としてお持ちの「集中」に加えて「拡散」スペースを結構思い切って確保したことがポイントです。“逃げ場”をたくさん作ったので、たぶん皆さん居心地がいいんだと思います。こちらの意図以上にうまく活用してくださっているので安心しています。