現在、全国に90店舗を展開する青山フラワーマーケットのショップ事業を中心に、EC・スクール・空間デザイン・カフェなど、“花と緑”を活かした様々な事業を展開する『株式会社パーク・コーポレーション』。「Living With Flowers Everyday」を企業理念とし、花や緑に囲まれた心豊かなライフスタイルをあらゆる角度から提案している。
今回OFFICEMILLでは、同社のオフィス取材だけでなく同社がカフェ事業として運営している「Aoyama Flower Market TEA HOUSE」の取材も行った訳だが、どの事業にも共通して言えることは、“花や緑は決して特別な日に飾るためだけのものではなく、とても身近なものである”ということを自然と我々に感じさせてくれるということだ。そんな独自の事業展開を行う同社では、「parkERs」という空間デザイン事業も行っている訳だが、自分たちのオフィス環境づくりに対する考えとはどのようなものなのだろうか。
parkERs Brand Creator / Chief Designerの城本栄治氏にお話を伺った。
なぜオフィス環境へ投資したのか
1988年にパーティーの企画・運営を主とする会社として設立した同社は、翌年商標名を「Aoyama Flower Market」とし、生花販売業を開始。1993年に南青山に本店をオープンさせると、その後も全国に着々と店舗数を増やし、今やショップ事業だけに止まらない事業展開により利用者やファンを継続的に増やし続けている。ショップ事業やカフェ事業を行っているということもあり、本社スタッフ以外の店舗スタッフも数多く抱えている同社では、本社オフィスを“店舗スタッフたちが気軽に戻ってこれる家のような場所”と位置付けている。そんな同社がオフィス環境に投資をした理由とは。
城本氏:人がどんどん増えていって、一つの場所で済んでいたいろんな機能が分散せざるを得なくなってきたというのが環境投資の大きな理由です。青山フラワーマーケット自体がヨーロッパ(パリ)のマルシェのイメージなんですね。なので、いろんな場所にマルシェを形成して、午前中で壊してまた戻るというようなイメージで店を作っているので、やっぱり「戻る場所」がどこかに必要だというところから、本社は各店の店長やスタッフたちが気軽に戻ってこれるような、家のような場所であるべきだろうということで、少し黄色い壁でノスタルジックな空気を作ったり、ウッドを多用したりして、温かいイメージのオフィスを作ろうということになりました。
また、南青山という土地には凄くこだわりがあるのですが、青山と言っても“南青山”に強いこだわりがあるんです。イメージ的にも明るく、陽射しを感じるイメージというか。北より南でしょと(笑)。元々は1993年に本社(本店)が今のオフィスの隣のビルの地下からスタートしているんですね。今はなくなってしまったんですけども、当時そのビルの近くのビルの駐車場の半地下に会社兼作業場があったんです。その後移転をしたビルも今はなくなってしまっているんですけど、古いビルの一室でした。そこから2002年7月に今のオフィスの5Fに移転をして、その後2013年に6Fが空いたということで、増床という形を取りました。始めは5Fのオフィスの中で店長会もやっていたのですが、そこから段々と店舗が増えるごとに店長も増えていったため、5Fだけでは入らなくなり、2002年の移転後2~3年してすぐに、本社から3分程離れた場所にあるビルのワンフロアを借りました。そちらは今は空間デザイン事業「parkERs」のオフィス兼パートナーズルームとして使用されています。
ショップ事業として展開している「青山フラワーマーケット」という社名にも“青山”と入っていますし、文化は青山から発信されていろんなところに流れていくという考えを大事にしているので、そういう意味では、より明るく元気なイメージで、場所にもこだわりたいというのがあります。
オフィス環境変革後の変化や反響
一人でも多くの方に、一分一秒でも長く、花や緑に囲まれた心ゆたかな時間を過ごしてもらいたいという思いから、「花や緑に囲まれた空間の喜び」を伝えていくことで世の中に貢献していきたいという価値観を持つ同社。写真を見てもらうとわかる通り、ショップやカフェはもちろんのこと、オフィス内においても同社のスタッフは花や緑に囲まれた空間で働いている訳だが、社内からはどんな反響があるのだろうか。また、そんな彼らのオフィスに訪れる社外の方からの声とは。
城本氏:社外の方からですと、「自分たちの会社もこうしたい」「羨ましい」というのは決まり文句のように言われますね。あとは、違う意味では「花屋だからここまでできるんですよね」という意見はありますね。実際は関係ないんですけど、技術的な面とか予算的な面とかは社長様などには心配されますが、担当の方たちはとても楽しみにしていただけます。やっぱり会社のスタッフの皆さんのモチベーションにも繋がるし、リクルート効果にも繋がるものかなとは思っていますね。メンタル的にもサポートできますし、リクルート的な効果にも繋がることや、お客さんに対して面白さを感じさせるという意味では、一石二鳥なのかなという感じは凄くしますね。
社内で言うと、やっぱりこの空間を見て会社に入っている人間が今はほとんどなので、外から入ってきた時の第一印象が良いというのはよく言われますね。森林や高原に来たみたいですね、などと言われたりもします。面接は本社の5Fと6Fでやるのですが、リクルート効果は自社の中でも感じますね。5Fはボリューム重視で緑を入れているので、6Fを作るときは少し押さえました。お客様にもですが、スタッフや面接に来られた方にもそのリアルさというのは伝わっていると思います。あとは、やはり写真で見るより“体感”なんですよね。カフェ事業として行っている「Aoyama Flower Market TEA HOUSE」を最初に作った時に自分たちでも想像していなかったのは、花屋の方と温度感が違うんですよ。肌で感じる湿度だったり、温度感っていうのが花屋とは全然違っていて、あれだけグリーンに包まれると、夏とかでも凄く涼しくひんやりとした空気感になるんですよね。同じ寒さでも田舎と東京だと全然違うじゃないですか。田舎って、田んぼが多かったりして環境的に湿度が高く充満していて、風が吹いても心地良いというか。そういうメンタル的なものだけではない、「人間の体」とも凄い繋がっているんだなと。緑が少なくなっていることによって、そういう感覚というのがなくなってきているんだなと思って。そういうのを僕らがきちんと形にしていくことができれば、「グリーンがあるといいよね」という言葉だけでなく、大げさかもしれませんが、プラスアルファでもっと医学的な部分で健康に繋げられるという意味では、今まで以上に必要性を求められるのではないかと思っています。
“公園”をイメージしたこだわりの空間
花や緑には、見ているだけで自然と人を笑顔にする癒しの力がある。同社では、そんな花や緑をただオフィスに取り入れるだけでなく、「社員をとにかくリラックスさせたい」という代表の想いがあらゆるところに反映され、また新しい形の“癒しの空間”が生まれている。社名の通り、“公園”をイメージしたという同社のオフィスにおけるこだわりのポイントを伺った。
城本氏:『パーク・コーポレーション』という名前の会社なので、その名の通り、“公園に人が集っているようなイメージ”というのを常に作っていくというのはベースにありますね。あとは、リラックスができて、みんなが求めている公園の要素をデザインしていくという意味では、動きを生み出すために水を使ってデザインしたり、木漏れ日を感じるような照明計画にしたり、人が集えるようなカウンターを置いたりだとか、そういうところにはこだわりました。
細かく見ると、5Fは本社機能がある場所なので、先程話した通り“スタッフが帰ってくる場所”をイメージとして作りました。始めはここだけでしたからね。その後作った、少し離れた場所にあるパートナーズルームという場所は、「内部、外部のパートナーによる教育の場、情報交換の場」としての空間を作りました。パートナーというのは店長会をやるだけのパートナーではなくて、生産者の皆さんや各業者さん等、そういう方たちの講演、セミナー的なものをここでやろうという考えで作ったので、エレベーターを降りたらまずスタッフが楽しそうにしている写真がバーッと貼ってあったりだとか、中に入ると今度は生産者の人たちの手と花と顔の写真がランダムに貼ってあったりだとか、そういう“人々”を感じられる作りにしました。あと、全店舗1店舗ずつ、今は全部で92店舗分(取材時)の写真がバーッと貼られていますね。一番初めはまだ40~50店舗くらいだったんですけど、全部で200枚くらい貼れるように最初から作っておいたんです。そうすれば、アルバイトの子たちが説明会に来ても、まだまだ伸びしろがあると思うんじゃないですか?という話を当初はしていましたね。
私たちはよく「五感」という言葉を使うんですけど、耳で聞くものであったり、目で感じる揺らぎ感であったり、風の動きであったり、テーブルなどを触った時の素材感であったり、そういう五感で感じることを大事にしているというのはありますね。うちの会社で出てくるお茶なんかもハーブティーだったりしますしね。そういう他にはないものを感じさせるということは凄く意識しています。
家具についてもほぼ自社製品ですが、既製品でも表情が凄く豊かなものがあればオフィスの中に入れていったりはしていますね。全部が全部自然である必要はないと思っています。樹脂の家具なんかもあって、そこに自然の家具を対比で使うことによってお互いに相乗効果が生まれているところもあると思います。全部がナチュラルになってしまうとぼやけてしまうので、公園の要素をデザインしてデフォルメしたり、素材を対比させたりというようなことを意識するようにしています。
今後取り組みたいオフィス環境づくり
元々はグリーンを導入する訳でもなく、むしろ倉庫のようなイメージだったという同社のオフィス。その後、「花屋なんだからもっとグリーンを入れよう」ということで、少しずつ少しずつ手を加え、今のオフィスの形になっていったという。設立以降、順調に店舗数を増やすだけでなく、花や緑に付随した様々な事業展開を行うことで右肩上がりに業績を伸ばし続けている同社だが、自社のオフィス環境はもとより、日本のオフィス環境づくりにおいて、今後どのように取り組んでいきたいと考えているのだろうか。
城本氏:今後は海外をイメージしていますね。この間もドイツの医療メーカーで、日本支社を持たれている会社のオフィスを考えてほしいという話があり、コンペということで資料を提出してお話しをしたら、うちのオフィスを見に来てくれたんですよ。その時に、伝わり方が全然違うと感じました。日本の方たちですと、総務の方のイメージだとか予算や初期投資がどうとかって話になるんですけど、海外の方は実際の環境の方を絶対に優先されていて、会社が持つべき理念からしても、この素材感のこういう環境はピッタリだというような話になるんです。自然と人との関係という意識を凄く持たれているというのが、日本とは違うなと思いました。海外は自然の豊かさを感じられている方が多いので、そういうところに僕らももっと出ていって、実績を日本に持って帰るみたいなことがもっとできたらいいなと思いますね。
今、海外でも伸びている企業はやはり皆さん緑を取り入れているようですね。GoogleさんやAppleさんとかがそっちに走っていらっしゃるので、それを追随しているという感じはありますね。
あと、僕らには「インドアパーク」という考えがあるんです。ベルリンやニューヨークなどの大都市と東京を比べたときに、人口に対するグリーンの面積比率が、東京は10分の1しかないんです。公園を作ろうにも土地が全然ないですしね。それはイコールどういうことかと言うと、いくら歩いてもなかなかグリーンに出会えない環境であるということなんです。都市生活者に対してグリーンに出会える環境を提供するためにはどうすればいいのかと考えたときに目を付けたのが、“インドア”でした。そこからインドアに公園を作ろうということで、「インドアパーク」という一つの考え方を作って、広めていったというのがあるんですよ。そういう意味では、海外は外にたくさん緑があって歩いていると公園に出会えたりもするのですが、東京はそういうことがないので、その分もっと室内に「インドアパーク」を作っていかなきゃいけないと、強く思いますね。
Pick Up “ここが、パーク・コーポレーションらしさ“
■誕生日の贈り物
「一人でも多くの方に一分一秒でも長く花や緑に囲まれたナチュラルな時間を過ごしていただきたい。」この想いに共感したスタッフたちが集まる同社では、代表である井上氏自らが、毎年全社員一人ひとりの誕生日に、メッセージと共にその人のイメージに合った花瓶とお花をプレゼントしてくれるのだとか。
■盛り上がりを見せるイベントの数々
同社では、年に1回お花の生産者の方々を大勢お招きしておもてなしをするパーティーが行われたり、ブーケコンテストやファッションにお花を取り入れたショーなどを行う新年会が開かれたりと、同社ならではのイベントが多々行われている。イベントごとに「スペシャル」という法人対応のチームが対応するという本格ぶり。
■自由に使えるパリのアパート
同社はパリにアパートを一室借りていて、このアパートは社員であれば誰でも使用することが可能なのだとか。この取り組みの裏には、「社員が花の本場であるパリに少しでも行きやすくなるように」という想いが込められている。こちらも“花と緑”を扱う同社ならではの羨ましい取り組み。