1999年に日本電信電話株式会社より分離して発足し、大手電気通信事業者の一つとして、国内のみならず世界196の国と地域でグローバルにビジネスを展開する 『NTTコミュニケーションズ株式会社』。主にクラウド・ネットワーク・セキュリティ・アプリケーション・マネージドICT( Information and Communication Technology)サービスなどを一体的に提供する「シームレスICTソリューション」により、クラウドを活用した低コストで安心安全なICT環境実現のための取り組みを進めている。
また、同社は“Our Business Principle”という名のもとに理念を明文化して共有しており、①お客様第一の視点でスピードと勇気をもって変革、②現場力を更に向上、③グループのトータルパワーを最大限発揮、という3つの行動規範を基に、オフィス環境作りにも力を入れている。2007年の移転時に獲得した「日経ニューオフィス賞(ニューオフィス推進賞・情報賞)」を機にメディア露出も増え、“成果を出すための装置的なオフィス”として大きな注目を浴びている。そのこだわりについて、当時移転プロジェクト(汐留ビルディング)に関わった、現第一営業本部ダイレクトマーケティング部門長の森下高志氏よりお話を伺った。
なぜオフィス環境へ投資したのか
2007年に、“成果を出すオフィス”へと大改造を果たしたNTTコミュニケーションズ。以前都内に13ヶ所あった支社が2015年の時点では汐留、田町、日比谷の3ヵ所にまとめられている。お話を伺った森下氏は、1年半を汐留オフィスで過ごし、2015年1月からは日比谷オフィスへ異動されるそうで、今回はその直前にお話しを伺える機会に恵まれた。当時を振り返り、思い入れが大変強いオフィスになったという。成果を出すという目的に徹底したというオフィスへのこだわりと、そこに至るきっかけを尋ねた。
森下氏:汐留ビルは移転してから2014年で7年目を迎えました。私が総務部に着任したのが2007年7月で、移転したのが2008年2月だったのですが、移転時期だけは既に決まっていて、何を移転目的とするか、具体的にどこをどう変えるかといったことがあまり定まっていなかったんです。そこで、賃料だけでなく働き方も変えて、トータル的なコスト削減をすることで経営面での投資をすることになりました。そのきっかけとしては、当時部署の場所が分散しすぎていたということに加え、もっと強い意味付けが必要だということで、経営そのものに貢献させようという狙いでした。
そこで総務部が移転プロジェクトチームの中心となって、半年前から一気に準備を始めたわけです。『日経ニューオフィス賞』を受賞している企業を見たり、キーマンへのヒアリングを行ったりしました。更に参考にしたのが、一橋大学大学院の野中郁次郎教授の『SECI(セキ)モデル』(※注)ですね。クリエイティブオフィスで有名な方ですが、オフィスはあるだけでなく中の配合を考えることによって生産性や働く度合がどんどん高まっていくという話で、皆で勉強しながら一気に練り上げていったという流れです。
(※注)知識の共有・活用によって優れた業績を挙げている“知識創造企業”がどのようにして組織的知識を生み出しているかを説明するため、野中教授らが示したプロセスモデル。ナレッジマネジメントの基礎理論として知られる。
『ITmedia エンタープライズ』より引用(http://www.itmedia.co.jp/im/articles/0501/19/news128.html)
オフィス環境変革後の変化や反響
2014年に7年目を迎えた汐留オフィスは、時間を経た今もそれを感じさせない。ハード面を固定化させることで実質的なコストを抑えているので、7年間で特段変更はないそうだ。年間30億円に近いコスト削減に取り組む当オフィスの、環境変革後の社内外からの反響とは。
森下氏:経費削減のために、どこにどれだけ掛かっているのかというデータも半年で一気に集めました。その内、移動の経費が予想以上に掛かっていることが分かったんです。4千名程の移転で、13ヶ所ぐらいに分散していた部署を3ヵ所ぐらいにまとめると、タクシー代や電車代の蓄積が10憶円ほど浮く計算でしたが、実際にそれが現在結果として表れています。あとは複合機の導入も大きかったですね。プリンターとFAXがそれぞれバラバラだったのをまとめて、カード制にして個人でどのくらい使用しているのか見える化したところ、紙系のコストを40%減らすことに成功しました。これも計画通りに数字が出たなと思いましたね。是非色々な会社にもおすすめしたいです。
また「ライブオフィス」を作った効果も大変実感しています。汐留オフィスは、法人営業部隊がまるまる移動してきたところなので、オフィスにいらしたお客様に実際に運用している姿を見て頂くのが一番早いということで作りました。我々の仕事は引っ越しに伴うネットワーク構築なので特にマスコミ系のお客さまが多かったですが、新築のビル構築の受注に相当の引き合いがありました。
メディアに取り上げられたことも大変大きかったですね。最終的には営業に繋げるためですが、賞を取ることは凄く重要です。形として残りますし、外部から評価を頂いている、とアピールできますから。そういった意味では『第21回日経ニューオフィス賞』で情報賞を受賞できたこともネライ通りでしたし、『日経ビジネス』や『ガイアの夜明け』で取り上げられたこともPRとして大きかったですね。移転も経営に大きな効果をもたらす、ということを弊社の取り組みで体現できたと感じています。
そして、実際にご来社下さったお客様から 「とても明るくていいですね。我々もこんな場所で働きたいです。」と言って頂いています。新入社員の説明会や面接もこのオフィスで行っています。かなり意図的に(笑)。私も実際ここで働いていて、非常に明るくていいオフィスだなと感じますね。
経営に大きな効果をもたらした移転
4千人規模の移転を、半年という短期間で行った同社。綿密なデータから“事業仕分け”ならぬ“無駄仕分け”を行い、効率的で社内コミュニケーションが活性化するようなオフィス環境作りを目指した。同社の思い描いたオフィスの形とは。
森下氏:以前は、専門性を高めるという発想があり席は固定的でした。異動自体があまりなかったんです。その弊害が一言で言うと「たこつぼ化」という具合に発生していたんです。当時の経営トップがそれを気にしていて、何とかぶち壊そうとしていました。そこで社内でどうにか人が交わるように色々な仕掛けをしたんです。
そのうちの一つが「チームアドレス」です。当時フリーアドレス制が主流だったのですが、どうも我々のカルチャーには完全なフリーアドレスは合わないという結論に至り、何度か会議を経てチーム単位で席移動することにしました。一人一人がバラバラになるのではなく長机に各チームで固まることがポイントです。PCと電話さえあればどこでもすぐに同じ環境で仕事ができますから。席替えのタイミングはプロジェクト毎ですね。半年とか一年周期で行います。今はすっかり定着していますね。
また、複合機を一ヶ所に集めたり、個人用のごみ箱を廃止して一ヶ所に集めたりして、「わざわざ移動させる」ことを意識しました。そうするとそこで人が鉢合わせるんですね。当時は「セレンディピティ」とかっこいい言葉で言っていましたが(笑)。その、「わざわざ移動させたこと」が活きていますね。
もう一点は「餌で釣る」ということです。夜遅くなるとお腹が空くので、『オフィスグリコ』や『フラビア』を導入しているのですが、皆アイス目当てに動くんですね(笑)。ワークスペースの中央にそれらを置いて、近くにコピー機や移動式のボードを置いておくと、そこでちょっとしたミーティングができるというわけで、コミュニケーション活性化に大変役立っていますね。
他にも社内に設置した12ヶ所のリフレッシュルームは、各スペースで雰囲気を変えています。これも社員にフロアをまたがって回遊してもらおうと意図的に行いました。移転当初は目新しさで回遊していた素振りは見られましたが、最近は同じフロアもしくは上下移動しかしなくなりましたね。だんだん固定されてきますよね。それでも以前と比べると偶然の出会いは格段に増えています。また、それとは対照的に窓側に一人で集中して作業できるサイレントスペースを作ったのですが、ここはあまり使われていないようですね。朝早く来て、そこで英語の勉強をしている社員はいるようですが。自席でわいわいがやがやしている方が、アイデアが出てくるのでしょうね。
今後取り組みたいオフィス環境づくり
今後は次世代クラウド基盤の提供を開始予定など、クライアントの経営の効率化や働き方改革推進の加速を助力する同社。移転が経営にプラスに働いた一つの成功事例として、これを軸に発展し続ける同社の今後のオフィス環境作りとは。
森下氏:間違いなく弊社はグローバル企業であり世界中にオフィスがあるので、どんどんいいものを取り入れていくことが、たぶん望まれるやり方だと思います。汐留オフィスが営業ビルとして牽引する成功例となったので、他のビルでも展開することになりました。田町オフィスも同じような発想で、できる限りガラス張りで回遊式にして、更にそこは開発系の部署をたくさん入れたので、半個室のブレストルームを設けました。働き方には際限がないので、今のメンバーで勉強して、どんどん新しいものを取り入れていってほしいと思います。
基本的に、「明るく」「楽しく」「前向きに」「稼げる」ということは大事ですね。最終的にビジネスにしなければ、ただのお遊びの場になってしまうので「稼ぐ」が非常に重要ですね。ちょうど一年半ここにいて、大半のことは意図した通りになったと思いますし、私はその一つのレンジで役目を果たしたと思います。日比谷オフィスの9階に新しいメンバーがいるのですが、彼らが今後、何か新しいことをやってくれると思います。
Pick Up “ここが、NTTコミュニケーションズらしさ”
■企業ラグビー部 「シャイニングアークス」
1976年日本電信電話公社時代に発足した東京支社ラグビー部は、歴史あるチームとして親しまれている。2008年度より、「NTT千葉総合運動場グランド」をホームグランドとして日々練習に勤しんでおり、常に好成績で活躍している。「シャイニングアークス」という愛称には、どんなときでも明るく輝き放つサンシャインをイメージさせるとともに、前へ、世界へ、未来へ向けて、チカラ強く矢を引くチャレンジャーでありたい、という想いが込められているのだとか。
部署に必ず一人は現役、OB関わらずラガーマンが在籍しており、ラグビーを起点にして会社が前進し続けるというメッセージ性があるようだ。
■ディスプレイを使ったデジタル情報配信
紙系のコスト削減のため、フロア内のディスプレイに社内向けの情報コンテンツを配信している。いわゆるテレビ放送のようなもので、内容は総務部が考え、固定的ではなく社内コミュニケーションに役立つようなネタをランダムに流している。例えば、入居しているビル内のおいしいランチのお店情報や、店舗で使用できるクーポン情報などの地元ネタや、ビル内の施設情報等の紹介も行う。
また、週明けには前週にあったラグビーの試合結果を流すことで、動員数が増加したり、ラグビーに非常に親近感が湧いたという声や、それをきっかけに話が深まるといったように、現在では社内コミュニケーションツールとして非常に重宝されているようだ。因みに日比谷オフィスでは、試合当日に社内放送があり、社員同士で声を掛け合って観戦に行くことも多いのだとか。