国内最大級の大容量・高速バックボーンを誇る自社運営データセンターを活かして様々なサービスを提供している『さくらインターネット株式会社』。同社は、「人々とビジネスの可能性を広げるデータセンターサービスの提供を通じ、インターネットによって開かれる創造性と驚きに満ちた未来の実現に貢献します。」というミッションを“使命”として掲げ、より多くの人にインターネットサービスを利用していただきたいという考えのもと、高品質でありながら、スケールメリットを生かした安価なサービスを提供すべく、日々邁進している。常にお客様を第一に考えたサービス作りを行っているそんな同社にはIT業界のファンも非常に多く、利用者に大変愛されている会社であることが窺える。そんなサービスを生み出す同社のオフィス環境づくりとはどのようなものなのか。広報宣伝室の油井佑樹氏よりお話を伺った。
なぜオフィス環境へ投資したのか
同社は2000年に創業当初の想いを「企業理念」としてまとめたが、2009年にはその企業理念をよりわかりやすいものへと発展すべく、新たに<Mission><Vision><Value>という3つのカテゴリーを制定。会社が目指すべき方向や目的を明確に可視化することで、そこで働く社員全員が同じ方向を向き、足並みを揃えて歩き出し、目的に向けて加速していくことができる。現に同社のサービスは常に加速し続けており、今では大きな広がりを見せ、業績も好調に推移している。そんな同社がオフィス環境に投資をすることになった直接的なきっかけはどのようなものだったのだろうか。
油井氏:2009年に事業拡大を機に東京支社を現在のオフィスに移転したのですが、その頃から各社員が高いパフォーマンスを発揮できるよう、オフィス環境向上にもこだわりを持って取り組み始めました。そして、2012年に現在のオフィスが入居しているビルに空きフロアが出るとの情報が入ったんです。その時点で、日々増える社員の数にオフィスが追い付いていない状態でしたので、この空きフロアが出たことをきっかけに構想を練り始め、2014年4月に新フロアを増床しました。
今回の新フロア増床にあたっては、「エンジニアのための“快適でクリエイティブなオフィス”に」という明確なテーマがあったので、社内エンジニアによる座談会を開き、そこで意見を集約して一つ一つを決めていきました。やはり、「使いやすいか否か」という点が一番大事だと思いますし、社員それぞれにそれぞれの「使いやすい」と思うこだわりがあると思います。そこで弊社では、自分なりにカスタマイズできる席を取り入れ、“一人ひとりの空間は社員自らが作り上げていく”という方法を取ったり、共有スペースにも様々な使い方ができる設備を取り入れ、コミュニケーション活性化を手助けする「集まれる」スペースづくりを心掛けたりと、全てにおいて「使いやすさ」にこだわりました。
個人の空間と仲間との空間を明確に分割しつつ、うまく調和させる。そんな空間づくりが「最適化」された環境に繋がるのではないかと考えています。
オフィス環境変革後の変化や反響
エンジニアを多く抱える同社では、新フロアの増床にあたり選抜メンバーによる座談会を開き、「エンジニア中心の働きやすいオフィス」を目指しブレストに近い形で意見をぶつけ合ったという。通常、移転や改装の際に社員アンケートを行う会社は多いが、社員数が多ければ多い程その意見を上手くまとめることは難しく、結局プロジェクトメンバーや代表の意見が前面に反映されがちになることも多い。そんな中、200名を超える社員の中から社員代表としてメンバーを選抜し、“使う側”のそれぞれの立場の意見を細かく吸い上げ、オフィス環境の変革を行った同社。そんな社員の声を最大限に反映させたオフィスでは、以前に比べどのような変化があったのだろうか。
油井氏:弊社はエンジニアのフロア(28F)と管理部門フロア(33F)が分かれているのですが、今回エンジニアのフロアの増床にあたり、こちらはあえて空間を少し暗くしました。当社の33Fは白を基調とした“アーバン”なイメージのあるオフィスで非常に清潔感溢れるオフィスなのですが、一方で「眩しい」という意見も案外多かったので、今回は目に優しい“アースカラー”を取り入れることになりました。こうすることで、モニターも良く見え、眼への負担が軽減されたという意見も上がっています。
また、オフィスの両端と中央にコミュニケ―ションスペースがあることで、「会議は定められた時間と場所で実施する」という固定概念が取り払われ、従業員同士が気軽に集まる場面が増えました。また、オープンな場所で活発な意見交換を行う光景も多くみられるようになりました。
エンジニアによるエンジニアのための新フロア
今回新たに増床された28Fの新フロア。構想段階で代表の田中邦裕氏が発した「エンジニア中心の、働きやすいオフィスがいい」というこの一言で明確にテーマが絞られ計画が加速したという。その後、社内エンジニアによる座談会を開き、彼らの意見を全面に反映させたというこの新フロア。そのこだわりのポイントを伺った。
油井氏:まずは空間づくりの一番大事な部分となるコンセプトを決めました。意見を出し合う中、満場一致で決まったのが、「アースカラー」というコンセプトでした。このコンセプトにより、新フロアの基調色をアースカラーである“黒”に設定しました。
コンセプトが決まった後は、仕切りパネルの高さや机の幅、袖机についてなど、細部の話を順番に詰めていきました。机の間仕切りは、座っていると個室感があるけれど少し覗き込むと相手が見える。そんな絶妙な高さを目指しました。机もエンジニアの要望を取り入れ、一般的な机よりも20センチ大きなものを、椅子も「試座会」を開いて決まったオカムラ製作所の新型を使用しています。
また、当初フリーアドレスという話もあったのですが、皆さんが一様に話していたのは「集中できる環境がほしい」ということでした。その意見を取り入れ、フリーアドレスではなく、席配置を固定した上でカスタマイズが可能な席作りをしました。そして、今までは1島6人の対面机だったのですが、それだと角ではない席の人が席を立つときに必ず誰かの後ろを通る必要があり、これは集中力を欠く大きな要因であるとして、隣の人の出入りが気にならない様、およそ9割近い席をほぼ全て角席にしました。
あとは、様々な部署の社員が部署の垣根無く一同に会し、仕事からプライベートまで様々なコミュニケーションを図って欲しいという願いから、コミュニケーションスペースを作りました。いろいろなデザインの什器を導入して、「使ってみたい」と思えるようなスペースづくりを心掛けました。
業務上スタッフの数も多いですし、オフィスにいる時間も長いため、エンジニア社員とオフィス環境の快適性は非常に結びつきが大きいと考えています。
今後取り組みたいオフィス環境づくり
オフィス環境においては、ハード面はもちろんのこと、ソフト面も非常に重要な要素となる。同社はそのソフト面である福利厚生や制度面、社内行事等において同社らしい特徴のある取り組みを行っているが、今後取り組みたいオフィス環境作りとはどのようなものなのだろうか。
油井氏:現在も、1時間から取得できる自由度の高い休暇制度や、家族の誕生日などに取得できる記念日休暇、ご子息の就学支援をはじめとして、さまざまな取り組みを行っています。男性社員への育休取得も推奨しており、一般社員から部長クラスの社員まで垣根なく取得していますし、2014年11月には2名の男性社員が育休を取っていました。制度は作っただけでは動きませんので、きちんと行使できる社内の雰囲気づくりこそが大事だと考えています。そういった雰囲気作りのひとつとして、同期会、パパママ会、一人暮らし会などいろいろな括りでの懇親会を実施し、社員の交流を深めています。今後も快適な就業環境や積極的な社内交流のために、様々な制度や取り組みを検討していきたいと思っています。
Pick Up “ここが、さくらインターネットらしさ“
■フラットな雰囲気
同社は社員の多くが中途入社であるため、様々なバックグラウンドを持った社員たちが集まっている。しかし、社長や役員とも直接気軽に話せるフラットな雰囲気があるので、役職の上下を問わず皆「さん」付けで呼び合う文化があるという。社長ももちろん「田中さん」と呼ばれているとのこと。また、フットサル・ダーツ・バンド・写真等、様々な社内サークル活動も行われており、雇用形態を問わず、派遣社員や協力会社も一緒に参加し、中には複数のサークルを掛け持ちしているメンバーもいるのだそう。
■社内行事の数々
エンジニアを多く抱える同社では、月に1回、技術ネタを持ち寄り、軽食をとりながら自由に討論する会である「テックランチ」と呼ばれる社内勉強会が行われている。こちら、なんと参加者のお弁当は無料。この他にも、「夏祭り」や「忘年会」などのイベントがあったりと、コミュニケーション活性化を図る取り組みが数多く行われている。
Creator’s Eye 富士ビジネス株式会社 / 設計部 白石 さやか氏
白石氏:今までは1フロア+別階のハーフフロアを利用していたのですが、増員されたとのことで、今回はこのハーフフロアの部分をまた別の階の1フロアへと増床するためのプロジェクトとなりました。このプロジェクト開始にあたり、クライアント様からは、「誰が何をしているかわかりやすい、コミュニケーション重視のオフィス」「眩しすぎないリラックス空間であること」「社長席を含めてオープンなワークエリア」「サーバールーム、リフレッシュルームの構築」という、大きく分けて4つのご要望をいただきました。
このご要望に対し、まずは現状のオフィスを見学させていただき雰囲気を把握した上で、ゾーニングのバリエーションを検討しました。L型のフロア形状に対し、集中するワークエリアとカジュアルなコミュニケーションエリアの関係性を、中央に集まる形「コア」と、並列に連続する形「パノラマ」という2つの案に落とし込んでご提案させていただき、社長様から「コア」の案を採用していただきました。「コア」は、中心とその周囲を明確に差別化し、CIを具体化したようなサーバールームをその中心に象徴的にレイアウトすることで、物理的にも概念的にも「コア」の求心力を高めています。差別化された空間それぞれには、onとoffなどの対極の目的を設定することで、ワーカーの多様な要望や働き方を満足させる、快適な環境となるよう計画しました。
今回はオフィスの形がL型の見通しの悪いフロア形状だったので、2つのゾーンをどのようにつなぎ、1フロアのオフィスとしてコミュニケーションの取りやすいプランとするかが大きなポイント(コンセプト)になる点だと感じました。デメリットである見通しの悪さをメリットに転換するために、見えやすい中央のエリアにより多くのことが見えるような仕掛けをし、「コアエナジーオフィス」というコンセプトをつくりました。集中しやすいonのワークエリアに対し、カジュアルなコミュニケーションやリフレッシュのできるoffのホールエリアを中央にすることで、別フロアの社員も含めたみんなが利用し、人と情報のハブとなる「コア」ができました。
家具の選定については、プレゼンの段階では平均年齢の若いワーカーをターゲットと考え、モチベーションアップやそれぞれの目的に合ったワークスタイルを実現するためのデスク環境として、「Balance of Privacy」というテーマで提案しました。家具が何かではなく、空間(パーソナルスペース)がどのような環境か、に焦点を絞りました。一方、コラボレーションスペースはオフィスのアクセントになるようなデザイン性の高い家具を選定し、利用するワーカーのみなさんにワクワクしてもらえるような雰囲気を提案しています。また、プロジェクトのキックオフと同時に10名程度のスタッフを交えた座談会を行い、「カラーイメージ」「デスク環境」「オフィスチェア体験」の3つのテーマでディスカッションをして、ここでワークステーションの基準となるスペックを決定しました。オフィス全体のカラーテーマとした 「CIカラー」と「リラックス」 に基づくコーディネーションをしながら、プロジェクトの担当者様とショールームを訪れたり、実サンプルの確認を行ったりしながら、全体コストのまとめと共に、家具の決定を行いました。
竣工後は、機能面・運用面を最大限考慮した中での洗練された内装・設備工事のデザインや家具選定が最も喜ばれましたね。クラインアント様のFacebookにても時折、「コア」部分を利用したイベントや打合せ等の風景が挙げられております。また、経営サイド側からは人事採用を行う時にも有益なオフィスとして使える事での評価を頂くことができました。