アメリカ合衆国の食品会社「マース」の日本の拠点として、ペットケア製品や製菓・飲料製品等の輸入・販売を行っている『マース ジャパン リミテッド』。日本で代表的なペットケア製品として、ペディグリー®・カルカン®・シーザー®・シーバ®などが挙げられるが、これらの製品名はペットを飼っていない方でも一度は耳にしたことがあるのではないだろうか。マース独自の徹底した研究に基づき作られているこれらの高品質な製品は、国内はもちろんのこと世界中で長年に渡り支持され続け、今なおペットケア市場を常にリードし続けている。
また、同社はスニッカーズ®・M&M’S®・Milky Way®など、世代を超えて多くの人々に愛され続けている製菓類や、アルテラ®・フラビア®などオフィス内コミュニケーションを促進する場作りに役立つドリンク類も扱っており、その幅広い事業展開で今日も多くの笑顔を生み出している。今や世界の主要食品メーカーの一つとして73カ国以上で事業を展開している「マース」。その日本の拠点である同社のオフィス環境について、マース ジャパン リミテッドのドリンクス部門代表の常木一成氏と人事部 コミュニケーションコーディネーターの榮夕香氏にお話を伺った。
なぜオフィス環境へ投資したのか
1975年12月に設立をした『マース ジャパン リミテッド』。マースでは、品質・責任・互恵・効率・自由を「マースの五原則」として掲げているため、同社もこの文化を基盤に長年に渡りビジネスに取り組んできたという。そんな中、現在のオフィスが設立以降4度目の移転となる同社では、物件選びの段階から『マース ジャパン リミテッド』ならではの“こだわりの条件”があった。そのこだわりの条件を土台として、同社は長い歴史の中でどのような環境投資を行ってきたのだろうか。
榮氏:当初は会社の成長と共に社員数が増え、手狭になってしまったということで物件を探し始めたそうですが、「ペットが飼えるオフィス」を条件としていたため、かなり時間をかけて物件選定をしたようです。また、一面を見渡せるワンフロアであるということも大事な条件の一つでしたので、その「スペースの広さ」と「ペットを飼える」という両方の条件を満たす物件の選択肢というのは、当時は本当に少なかったと聞いています。10年前はペットが飼える物件自体がほとんど無かったようで、今の場所でたまたまその条件を頂戴したとのことでした。なので、物件選定の部分では通常より少し時間がかかったようですが、その後は猛スピードで作業を進めて、最終的には1年半くらいで移転を終えることができました。
今の場所には2005年に移転をして、私はその翌年の3月に入社をしているのですが、入社後すぐにオフィス内の改装プロジェクトが立ち上がりました。その時は正直「引っ越したばかりでピカピカなのに、一体何をするの?」と思っていましたが、その第一回目のオフィス改装をきっかけに、そこからほぼ毎年のペースで改装を行うようになりました。弊社のオフィス環境への投資というのはニーズに合わせて進化をしているので、常にフレキシビリティを持ったオフィス作りを心掛けていますね。また、オフィスというのは“働き方”が凄く反映されるものだと思うんです。ですので、それに合わせてどんどん進化させてより良い環境にしていきたいという社長の意思もあり、毎年のように手を加えている感じです。
常木氏:組織や戦略がその時々の状況によってどんどん変わっていく中で、オフィスというのはあくまでもそれに従属していくものだと思うんです。オフィスありきで会社があるのではなくて、会社の方向性があって、それにオフィスが付いていく。つまり、戦略と共に人が変わり、業界も変わり、扱う製品もどんどん増えていくという状況の中で、それに付随してオフィスにも投資をしていったというのが大きな流れです。
毎年コロコロ戦略が変わるというわけではないのですが、例えば2005年にこちらに移転をしてきた時には、“日本に根付いている”ということを全面に出したかったので、掘りごたつがある畳ルームを作りました。当時はシンボリックな感じで、“外資系だけど日本の事をよく解ろうとしている”というスタンスを出したかったのだと思います。ただ、掘りごたつということで座れる人数も限られていましたし、靴を脱いで上がるというのも外国の方は最初は面白がっていたのですが、日本人は嫌がる方も多く、結局ほとんど誰も使わなくなってしまったんです。そこで、再度見直しをかけて話し合った結果、大改装をしようという流れになったのが2008年だったと思います。
榮氏:本当に、「ここ直そう、あそこも直そう…」というような感じで改装を繰り返してきているので、そういった意味では移転当時の面影があるのは、壁と絨毯と机くらいですね。家具とかもガラッと変えていますし、柱巻きも変えています。
“なぜオフィスに投資をするのか”という話になった時に、私たちの中では2つの要素があるのではないかと思っています。1つは「コラボレーション」というのが、マースの働き方そのものの特徴であるということです。自分の仕事は自分だけでやると言って一人で仕事をするというのは、我々の会社では全く成り立ちません。そしてもう1つはコラボレーションをするための「コミュニケーション」です。コミュニケーションを取りやすい環境を作るため、社内にパーテーションは一切置いていませんし、誰がどこにいるのかというのもすぐにわかるような風通しの良いオフィスになっています。この「コミュニケーション」をいかに活性化できるかというのは凄く大きな軸の一つであり、投資価値はそこに物凄くあると考えているので、そのための改装を繰り返しているという感じです。
環境改善を考える上で最も重要なキーワード
2005年の移転以降ほぼ毎年のペースで改装を繰り返し、環境改善を行っている同社。毎回代表と榮氏がそのプロジェクトの中心となり、マネジメントチームやブランド担当者など多くの社員をうまく巻き込み、会社の戦略に沿った形で同社ならではの空間を作り上げているという。プロジェクトを実行するにあたり“コンセプト”というのは必要不可欠なものだが、改装のペースが早い同社では、そのコンセプトを一体どのように捉えているのだろうか。また、そのコンセプトからも読み取ることができる、環境改善を考える上で同社が何よりも大切にしている“キーワード”とは。
榮氏:改装については、毎回やってみてどうだったかという結果を振り返り、それを次に活かすという改善の繰り返しですね。なので、毎回コンセプトを変えてやっていこうというよりは、「どうすればこのオフィスの中でよりコミュニケーションが取りやすくなるのか」という一つのコンセプトに沿って、継続的にチャレンジをしている感じです。大規模なオフィス改装をしたのは実は1回だけで、それ以外というのはグラフィック等、マイナーチェンジではありますがガラッと印象が変わるようなものや、コストはそこまでかけずフィーリングを変えるために少しずつ行っているものもあります。
常木氏:当時はマーケティングはマーケティングだけ、ファイナンスはファイナンスだけというような形でファンクション別に括っていたんです。それを、ドッグ・キャット・チョコレート等の商品ごとに同じビジネス目標を目指す“ファイティングチーム”という部署横断チームで仕事をする体制に変更した時に全体のレイアウトも大きく変えて、オフィスの雰囲気もガラッと変えました。また、ファイティングチームで固まってしまうと逆に全体でのコミュニケーションが減って情報の行き来がなくなってしまうのではないかということで、その後更にコミュニケーションスペースを拡充させる大規模な改装を行いました。
榮氏:先程もお話ししましたが、「コミュニケーション」というのは弊社にとって最も大きなキーワードになっています。もうそれ抜きにはオフィス改装は無いと言っても良いくらいだと思います。会社によっては効率を重視するところもありますし、時代の流れとして今はどこの会社もコミュニケーションは大事だという流れになっているとは思いますが、我々はもうずっと前から、しかも世界中で同じようにこのコミュニケーションを大切にしてきています。更には、“マース ジャパン”という日本の環境の中で、どんな風にそれをフィットさせていけばコミュニケーションを取りやすいオフィスを実現できるかということを考える自由もいただいています。これはもう、マースの一つの“カルチャー”なんですよね。マースが全世界で行っていることなので、度重なる改装もこの「コミュニケーション」を大切にしていくための取り組みの一環であるということですね。
事業内容が体現されているオフィスのこだわり
ペットフードやお菓子、飲料など幅広い商品を取り扱う同社。その時々の戦略に沿った形でオフィス環境も少しずつ姿を変えている訳だが、そのオフィス内を覗いてみると各所に非常にうまく事業内容が体現されており、来訪者をワクワクさせる “マースジャパン”ならではの作りになっている。同社の歴史と共に時間をかけて出来上がった現在のオフィス。そのこだわりについて伺った。
榮氏:こだわった点はいろいろとありますが、中でもやはりキャットルームですね。会議室へ繋がる通路を作ったのは、実は2012年の猫たちへのクリスマスプレゼントだったんです(笑)。今の社長が2010年に着任をしたのですが、「今年は大きな改装をしていないので、この辺でどうですか?」と見積もりまで取ってじりじりと詰め寄り、3年もの構想期間を経てやっと実現させました(笑)。猫のためというのはもちろんのこと、我々自身がもっと猫と触れ合う機会を作るという意味で、私たちがキャットルームに行くというよりは、猫が会議室に来てくれる環境を作りたいということで、社長もすぐに理解を示してくれました。当時、猫好きのアメリカ人の上司がいたのですが、その人と猫の動きを想定しながらこの理想の形に仕上げました。
このように、アイディアがあれば提案ができて、理にかなっていればそれを実現させてもらえるという自由度は凄く高く持たせてもらっています。無駄なことはできませんが、意味のあることはやっていきましょうということで、少しずつやらせてもらっているうちの一つです。猫たちも幸せそうですよね!
常木氏:あとは社内にあるカフェですね。あそこは“マース ドリンクス カフェ”という名前が付いています。ブランドを体現したいというのはもちろんありましたが、仕事をするにあたってドリンクスというのはあくまでもサブなんですよね。メインはやっぱり“人”じゃないですか。人や人から出て来るアイディアこそが主役であって、それが物凄く大事な要素ではあることは間違いなく、ドリンクスというのはやっぱりサブだと思うんです。
今の働き方というのはどんどんスピード感が増してきています。みんなで集まって喫茶店に行こうよ、という一昔前のような流れというのはもうほとんどないんですよね。今はアメリカンフットボールのハドルのような感じで、クォーターバックの周りにガッと集まって、サッと話をして、パッと離れる。その間の時間というのは、コーヒーを一杯飲んでいる時間くらいのスピード感だと思うんです。なので、そこでコンビニに行ってコーヒーを買って来ようというのは、ちょっと違うと思うんですよね。やっぱりそこにコーヒーマシンがあって、話を途切れさせることなく立ち上がってコーヒーを抽出して、また話をしながら戻ってくる。このように、コミュニケーションの流れを止めることなくドリンクを持って来られるという環境というのは、やっぱりスピード感を持って仕事をしていく上では凄く大切なことなのではないかと思っています。
榮氏:マース ドリンクス カフェは、まさに今コミュニケーションの場になっていますね。以前は、磁石に引き付けられてくるような感じで人を集めたいということで“マグネットスペース”という呼び方をしていたんです。そして、人が集まるためには何が必要かと考えた時に、やっぱりコーヒーなんじゃないかということで、本格的なカフェのカウンターをオーダーメイドで作りました。今では、ミーティングルームに行こうとしている人と、コーヒーを飲みに来た人がカウンター越しに話をしていたりと、新たなコミュニケーションが生まれる場になりました。そういう意味では、とても嬉しい結果ですね。
オフィス環境変革後の変化や反響
2005年の移転時、「ペットが飼えるオフィス」を条件に物件探しをしたという同社。移転に併せてペットにまつわる様々な制度も作られ、それによりオフィス内においても動物との共生が可能になった。最近では職場に動物がいる企業も珍しくはないが、同社はそれが事業内容と直結するため、会社のブランディングとしても非常に重要な変化であったことは確かである。同社ではこれ以外にも度々環境変革が行われている訳だが、その変革に対して、周囲からはどのような反応があるのだろうか。
榮氏:キャットルームの評判はやはりとても良いですね。お客様にお越しいただく際には、事前にお電話で「猫はお好きですか?」とお聞きして、好きな方には「じゃあ、猫のお部屋ご用意しておきます!」みたいな感じで使っています(笑)。また、受付に呼ばれて行ってみるとお客様がいらっしゃらないことがよくあるのですが、そういうときは大抵キャットルームの前にいらっしゃることが多いですね。そういうときは、「猫がお好きなんですね?」という話で盛り上がったりもします。ここは完全にオーダーメイドなので、本当に世界に一つだけだと思います。マースのユニットでも他にはないかもしれないですね。
また、2005年の移転後から執務エリアに飼い犬を連れて来られる制度ができたので、犬が出社した日はオフィス内が和やかな雰囲気になります。個室のドッグルームもあるのですが、最近ではあそこに飼い犬を入れる人はほとんどいなくなりました。以前はお客様と会うときにその方が動物が大丈夫かどうかがわからないので一時的にドッグルームを使用していたりもしたのですが、最近では社員みんなが慣れてきて、飼い主が不在のときでも面倒が見られるようになったので、まるで幼稚園のようになっています(笑)。そういう協力体制が今は非常に良い形で出来上がってきていますね。
常木氏:あと、マース ドリンクス カフェは実はお客様が来た時も解放して使っているんです。なので、今社内で何が起こっているのかというのが空気感で何となく分かるんですよね。例えば、マースの事業が拡大している中で、あのグループは今こんな話をしているんだというのが少し聞こえて来たり。完全な密室状態にしないことで、そういう会社の空気感を感じ取ることができるようにもなったと思います。
榮氏:環境というのは会話に凄く影響するじゃないですか。カフェにいるとなんか気持ちが良いよね、みたいなのと一緒で。当時はポップな色の可愛らしい家具もいろいろとあったのですが、長時間使っていて体が疲れてしまっては困るので、会議がきちっとできて、心地が良くて、見た目も良い家具を選ぶようにしました。逆に「長く居るところではないんだな」というのも、そういうところから感じ取れると思うんですよね。例えば、固い椅子を置けばそこに人が長時間居座ることは減り、回転率が上がると思うんです。このように、全てにおいて心地良さを追求するのではなく、場所ごとに適した家具を選ぶことで、以前と比べて社員の動きも変わったように思います。
今後取り組みたいオフィス環境づくり
今年で移転から10年が経過する同社では、今なおオフィス環境の改善に向けた取り組みが頻繁に行われている。会社の歴史と共に時間をかけて手を加えられてきた同社のオフィスには、「コミュニケーション」と「コラボレーション」を促進させるための知恵と工夫が詰め込まれている。今後もその2つの要素を最大限に活用し、より“マースジャパンリミテッドらしい”オフィスへと進化していくに違いない。
常木氏:オフィス環境づくりというのはトレンドに流されるものではなくて、最初に申し上げた通り、やはり“戦略”ありきなんですよね。戦略があって、その流れに合ったオフィス環境を作っていくというのが引き続き根幹としてブレずにあり続けると思います。そして、「コミュニケーション」「コラボレーション」という2つの要素をより活性化させるために何をしていくのかということをその上に乗せていくような仕組みを作っていきたいなと思っています。
具体的に言うと、今はラウンジエリアが自然発生的に少しサロンスペース的な使われ方をしているんですね。それについては全く意識をしていなかったんですけども、それを意識的にやった時に何か起こるのかな?ということには凄く興味があるんですよね。受付付近にあるラウンジエリアをよりサロン的な感じにして、外部の方たちにもオープンにすれば、もっといろんなイノベーションやアイディアが生まれてくるんじゃないかと思うので、そういう実験的なことも行ってみたいですね。また、そこにマース ドリンクスがいかに関わっていけるのかという辺りも模索していきたいですね。
榮氏: 毎回改装の度に「やりきった」と思うのですが、次の課題というのはすぐに出て来るんですよね。常にアンテナを立ててニーズに合わせることももちろん大事ですが、社員の中から意見が挙がってくることもあったりするんですね。各会議室にパソコンの充電器を置いたらどうかとか、あそこの椅子が壊れているとか、コミュニケーションボードが欲しいとか…。社員全員でこのオフィスを共有していて、それに対しての責任も社員全員にあるという文化は現時点でも既に成り立っているので、今後もこの関係性をうまく続けながら、みんなで一緒により良いオフィス環境をつくり上げていきたいなと思っています。そして、“オフィスは自分のものでもある”という意識を持ってもらい、オフィスと共に進化していってほしいなと思いますね。
Pick Up “ここが、マースジャパンリミテッドらしさ“
■ペットフレンドリーオフィス
ぺディグリー®やカルカン®等のペットケア製品を扱う同社では、ペットを飼うことを通して動物への知識を高めることで、自社の製品やユーザーへの理解が深まるという考えから、“Pet loving culture”というスローガンを掲げ、ペットにまつわる様々な制度を設けて「ペットフレンドリー」の考え方を自ら実践している。そのユニークな制度をいくつかご紹介したい。
・ペット同伴出社制度:ペットを飼うことができる現在のオフィスに移転をした2005年に作られた制度で、その名の通り、自分が飼っているペットとの同伴出社が可能になるというもの。また、ペットを連れた移動時は電車を利用することが難しいこともあるため、特別に車やタクシー等での出社が認められており、その移動の際にかかった交通費の一部は会社が負担してくれるという。ちなみに、1日にオフィスに同伴出社できるペットは2匹までと決まっており、こちらは予約制になっているのだとか。
・ペット慶弔制度:ペットを飼い始めたときにはお祝い金が、ペットが亡くなったときにはお見舞い金が出るだけでなく、それに伴った休暇も取得できるという制度。ペットも“家族の一員”として考える同社では、人間と同じように、慶弔にまつわる支給や休暇制度をきちんと整え、飼い主の気持ちを大事にしている。
■役員スペース「マネジメントサークル」
ワンフロアに広がる同社のオフィス内中央に設けられているのが、役員の方々が集まる「マネジメントサークル」。現在9名で構成されているマネジメントチームはこのオフィス内中央にある役員スペースの中でサークル状にデスクを並べ、全員が顔を合わせる形で業務を行っている。移転当初はマネジメントチームの人数も少なかったようだが、会社の成長と共にその人数が増え、サークルのサイズが大きくなるに連れてその中心部の空きスペースも拡大。今ではそのスペースに大人数での使用が可能な長机と椅子が設置されている。
こちらは役員専用のミーティングスペースなのかと思いきや、社員であれば誰でも使用が可能であるというのが面白いところ。社長をはじめとする役員の方々に周りを囲まれているにも関わらず、こちらのミーティングスペースの社員利用率は非常に高く、広報の中村由帆氏いわく、「皆物怖じもせず、気軽に自由に使っています(笑)」とのこと。
少しでも空いたスペースがあれば有効活用し、新たなコミュニケーションが生まれる場を作る。その考え方はまさに同社らしく、上記の話からも上下関係や部署間の垣根を越えたフラットな環境が見事に成り立っていることが分かる、同社ならではの取り組みである。
Creator’s Eye 株式会社ディー・サイン / デザイナー 稲石和宏 氏
まず、2011年にオフィスレイアウトの変更を行いました。社員のコミュニケーションをもっと活発にし、『ワイガヤ』の感じられるオフィスレイアウトへと変更したいというご要望に対し、当初の複雑な動線を整理し、主動線・補助動線を明確化することにより、人々が行き来しやすいレイアウトに変更しました。また、デスクの効率的な再配置でミーティングスペースも捻出しました。マースジャパン様は改修を行う前のレイアウトが、既に効率的にもデザイン的にも完成されていたため、更なる改善を行うという点では難しかったですね。でも、竣工後にはメイン動線を明確化したことによって日々の使いやすさが向上し、個人・チーム間のコミュニケーションが活発になったと喜んでいただきました。
2012年にはキャットルームと会議室を繋ぎ、猫たちが自由に行き来できるキャットウォークを構築するという改修工事を行いました。これについては猫の行動特性を理解し、猫たちが自由にストレスなく利用することができ、かつ来訪者に“驚き”を与えられるような仕掛けを大切にするよう心掛けました。気まぐれな猫の行動を予測することや、ビル側への説明や法規への適合には悩むこともありましたが、結果的にはキャットウォークを渡った猫が会議室に遊びに来た時に、一気にその場が和やかな雰囲気になるととても喜んでいただくことができました。
そして昨年2014年には、ブランドイメージの浸透のため、会議室グラフィックの変更を行いました。マースジャパン様が取り扱っている、ぺットフード・チョコレート・ドリンクのどのブランドが同じ空間に来てもアンバランスにならないようにデザインすることや、グローバルのデザインレギュレーションを守りながら、いかにインパクトを与えるデザインをバランスさせるかということに注力し、ブランド浸透のためのインパクトと、既存オフィスとの相性を大切にしたデザインを行いました。これにより、空間を大規模に改修することなく、グラフィックの変更のみで雰囲気を大幅に変えることに成功し、社員の皆様や来訪者の方々に驚きを与えることができました。