1979年に広告写真制作会社としてスタートして以来、“伝える”から“伝わる”コミュニケーションを実現するためにビジネスを拡大し、ビジュアル・コミュニケーションのエキスパート集団としての礎を築いている『株式会社アマナ(アマナグループ)』。広告を中心としたビジュアル制作、コミュニケーション・コンテンツの企画制作、エンタテインメント映像製作、クリエイティブ素材の販売など、幅広い事業展開を行う同社は、「ビジュアル・コミュニケーションで世界を豊かにする」ことをコーポレートミッションとして掲げ、時代の進化に敏感に対応し常に挑戦をし続けている。“人が中心”であると考える企業理念の下、ビジュアル・コミュニケーションのプロとして人の心を動かし、社会で役に立ち続ける会社として邁進する同社が考えるオフィス環境作りとは、どのようなものなのか。取締役クリエイティブ・ディレクターの児玉秀明氏、総務部マネジャーの樫山健一氏にお話を伺った。
なぜオフィス環境へ投資したのか
インターネットなどの普及により、今や人々のコミュニケーションの形は劇的に変化し、多様化してきている。そんな時代の要請に先駆け、同社ではビジネスモデルやソリューションアイテムを次々と生み出し、そのマーケットを順調に拡大。その勢いは国内だけに止まらず、アジアにも進出をしてビジネスを展開している。何においても変化や移り変わりの激しい昨今、“時代を読む力”とそれに対応するための“柔軟な対応力”が必要になるが、同社はその両方を持ち合わせ、自らも時代と共に変化しながら今も進化を続けている。そんな同社がオフィス環境に投資をする理由とは。
児玉氏:オフィスに投資をするというよりは、時代に合わせて事業が変わっていくことによって、オフィス空間や制作環境が変わっていくんですよね。ビジネス的に変化していく中では、働く場所だけでなく組織もそれに伴い変わっていくため人の異動はかなり多いと思います。これも時代に合わせてというところが大きいですね。グループ企業が増えたり、統配合されたりという新陳代謝を繰り広げていますから、それによってオフィス空間もアメーバのように変わっているという感じです。異動が頻繁にあるという意味では、スペース造りは大変ですけどスピード感をもって柔軟に対応している会社ではあります。
以前に自社ビルを建ててという話もあったんですけど、結局追いつかないんですよね。我々のビジネスはある程度時代の流れを捉えないといけないので、その中で人も増えたり、事業も統廃合されたりして常に変化していきますからね。そういう必然から、どんどんオフィス空間が変わっていくということの方が強いと思います。その結果、投資してるということになりますね。
オフィス環境変革後の変化や反響
1980年代に倉庫を改装してオフィスを造り上げたという同社は、時代の変化に応じて幾度となくそのオフィスをリノベーション。毎年何かしら手を加えているという同社では、社員もその変化に慣れており、来客者から言われて初めて気づくこともあるのだとか。それくらい自然に進化していくオフィスに対する、社内外からの反響や変化とは。
児玉氏:ある時ガラッとオフィス環境が変わったということではなく、“文化”としてオフィスが変わり続けているので、そこまでインパクトがある社員の反響や変化というのはなかったように思いますが、以前、一時CG部門のグループ会社の代表をやっていた時に、そのCG部隊は業務の特性上、暗い室内環境の中で業務することが多かったのです。必然的に壁も黒くて照明も暗くて。だから目が慣れるまではほとんど穴蔵のような感じでしたね(笑)。昔はディスプレイが今の液晶よりも発光度が低いブラウン管だったので暗い空間でもよかったんですけど、ブラウン管が液晶になって見やすくなると、今度はみんなが「暗い!」という意見が多くなって、じゃあもう思い切って明るくしよう!ということになり、CG部隊のフロアなのですが、いろんなCG系の会社が統合して一つのフロアに入ったのを機に、フロアの真ん中にみんなが集える広いコミュニケーションスペースを作りました。CG系の方たちは比較的自分の世界に閉じこもることが多いので、閉鎖的だったところを完全にオープン化したんですよ。照明も明るく空間自体もかなり変わりましたが、社員の気持ちも大きく変わったようで、非常に社内が活性化したのを感じましたね。
オフィス空間を変化させることで仕事のスタイルも変わります。多様化するデバイスに対応するためにソリューションも変化するため、オフィス空間環境を変えていくっていうのはありますね。時代というか、我々の“変えることの意味”というか、それを感じながら実行していくということなんでしょうね。理由がちゃんとあるということです。
対外的な取り組みで言うと、スタジオというのは人が来て長時間居る場所なので、お客様にとって居心地のいい空間でなくてはならない、それが全ての考えの基になっているんです。当初、コーヒーのロールスロイスと呼ばれていた、スイスのエグロ社のエスプレッソマシーンがあったのですが、そのコーヒーが美味しいのでそれだけ飲みに来たというお客様もいたんですよ(笑)。そのくらいオフィスに居るっていうこと自体が楽しみになるようなことも、対外的には気を配っていますね。
また、他の企業様が弊社のオフィス環境にご興味を抱いてくださり会社見学の依頼も多いことや、海岸スタジオで何かコラボレーションのイベントをしたいって言う時にも、こういう空間があるというのはそれなりにプラスになりますよね。学生さんたちも結構オフィス見学にいらっしゃるのですが、皆感嘆詞を漏らしてくださいますね。別にオフィスで釣っている訳ではないんですけどね(笑)
竣工=スタートという考え
近年、企業のオフィス移転や改装のスパンがどんどん短くなっているように感じるが、同社の場合はリノベーションの回数も含め、他社の比ではない。通常一年くらいをかけて行うオフィス空間作りでも、同社では早くて半年前、短いときは2~3ヶ月前からでも平気で行ってしまうという。最近だと、1000坪ほどあるスタジオを、たった4ヶ月でリニューアルさせたのだとか。
時代の流れと共にオフィスを変化させていくことを繰り返し、その環境変革が“文化”にまでなった背景には、どのような方々が関わってきたのだろうか。
児玉氏:我々は今までかなりの環境変革を行ってきましたが、いつもお世話になっているのはジョイントセンターさんですね。お任せするようになったのは、当社の代表が、ジョイントセンターさんが手掛けたあるデザイン会社の空間設計を気に入ったのがきっかけで、そこからですからもう約30年のお付き合いになるんです。
短いスパンで意志を伝えるって結構大変じゃないですか。そういう意味では感覚的に漠然としたイメージを具現化してくださるので、弊社を知り尽くしているジョイントセンターさんにお願いしてるという感じですね。また、ジョイントセンターさんの設計思想というのが、「完成した時から(空間が)始まる」というものなんですね。ですから、竣工した時はスタートという考えなんです。この考えも、ずっと一緒にやっている理由の一つですね。ちょっと流行に走った設計士が作ると、すぐに古く感じるじゃないですか。そういうことはやりたくないので。
弊社のオフィスでは、T3-1階が一番古いんです。でも、ここに越してきた当初から25~26年、ほとんど設計を変えてなく素材も変えてないんです。かなりエイジングはされていますが、それでも味が出てきているんです。新建材を使ったりするとすぐに陳腐化するんですけど、本物の素材を使い続けるとやっぱり時間が経つごとに素材に味わいが出てくるというかね。そういった思想もジョイントセンターさんは持っているので、とても信頼しています。
実験からの本格導入
「amana」という社名の中心には「man」があるように、アマナグループのビジネスの中心には常に人がいる。また、経営理念においても“人が中心”と謳う同社では、社員だけでなく、来客者にとっても居心地の良い空間作りを心掛けている。その空間作りのコンセプトと新たな取り組みとは。
児玉氏:基本は弊社の企業理念自体が「人が中心」ということなので、社員だけじゃなく、ここにいらっしゃる方々に対してのおもてなしだったり、社員が働きやすい空間であるということが基本ですね。あとは、オフィスにいる時間をなるべく快適に、というのが一つのコンセプトだと思いますね。ただ、あんまり居心地がいいと会社の滞留時間が長くなる。効率的に仕事をするためにはオフィスをどうしたらいいのかというのは、今後の我々のオフィス作りという考えの中では大きな課題ですね。
弊社では長年フリーアドレス制を導入することを躊躇していたんですが、今回一つの実験として導入してみたら意外と効果が出て、「早く帰社する」ということに繋がりました。いわゆる昔の島型配置というのは、上司が帰らないと帰りづらいという雰囲気がありましたからね。これは一つ良い結果を生みましたね。
樫山氏:時代の流れ、仕事の効率化等、様々な問題があります。根本にはもう床面積が足りないということもあって、限られた空間の中でどう人を収めるかということが実は裏では課題となっています。今までは固定アドレスで増やすという感じだったのですが、もう社員も1000人以上を超えていますので、今後は雇用が多様化することを含め、いかに今の空間を効率よく使うかというところですね。ワークプレイスの変革というところも踏まえて、現在フリーアドレスの導入というような改革をテストしていますが、来年以降は本格的にやっていこうと思っています。固定アドレスの意識が強い会社でしたので、そこを柔軟にしていくというのが一番の目的です。
児玉氏:今では特にデジタルデバイスがかなり発達しているので、余程固定して制作しなくてはいけない部署以外はどこでも仕事ができるじゃないですか。今後はどこでも仕事ができる空間、そういう風に少しずつ変わっていくんじゃないかと思いますね。
今後取り組みたいオフィス環境づくり
“文化”としてオフィスが変わり続けているという同社では、今後も時代の流れを読み、敏感に対応しながら、その事業内容と共にオフィスも更なる変化を遂げていくことは確かである。表現のための表現ではなく、すべてはコミュニケーションのために、ビジュアル・コミュニケーションのプロフェッショナル集団として社会で役に立ち続ける会社でありたいと考える同社の、今後の環境変革についての構想を伺った。
児玉氏:イノベーティブな仕事の仕方というか、ワークスタイルを変えるためにオフィスの機能をどう変革するかということですね。デザインというだけでなく、ワークスタイルを変えるために、仕組みとしてオフィスがどう変わるのかというのが今後の課題だと思っています。
樫山氏:今ハード面とソフト面があるのですが、ソフト面で言うと、acp(アマナクリエイティブプラットフォーム)というクラウドサービスを色々と立ち上げているので、それを我々社員やお客様と使っていくということ。そしてハード面で言うと、フリーアドレスだったりというような様々なハード面のところをデジタルと融合させることで、デジタルとアナログを一緒にした空間作りがうまくできればいいかなと思っています。
また、アマナグループ全体としては1000人以上の社員がいるのですが、現在その社員たちの声や要望を取り入れるような仕組みがないため、そういうのも今後は取り入れていこうと思っています。それぞれの社員の立場に立った時に何が足りないのかっていうこともまだまだ分かっていませんので、そういう声も聞き入れて、新しいオフィス作りをしていかないといけないかなと思っています。
あと、我々はどうしても色々と発信をしたいことがあるんですけれど、1000人以上も社員がいるのでなかなか周知ができないんです。ですので、それをどうやって周知させていくかですね。ポータルサイトもあるのですが、実際は3分の1くらいしか見てなかったりとかしますので、そこのコミュニケーションをどうしていくかということと、それを新しいオフィス空間の中にどう取り入れていくかということも課題になっていますね。
Pick Up “ここが、アマナらしさ“
■「amana’s manner」
アマナグループがずっと大切にしてきたマナー、「amana’s manner」は、ルールや規則ではなく、多くの人が「みんなが守ってあたりまえ」と思っている「行動に対する期待」として、“こだわりマナー15ヶ条”という形で表現されている。マナーを守るということは、自分はひとりでそこに居るわけではないことを意識して、周囲の人をおもいやりながら行動するということ。そして、社員・クライアント・仕事のパートナーの信頼を得て、より円滑に、より豊かにコミュニケーションを図るために不可欠なものであるとして、長年同社の中で語り継がれている。
1.期待は裏切らない、予想を裏切る。→感動をあたえる
2.1時間「しか」ないより、1時間「も」ある。→集中する
3.イメージできる未来は、現実にできる。→計画する
4.できると信じるだけで、可能性は上昇する。→自信をもつ
5.誰かと比べない。昨日の自分と比べる。→自己新記録を重ねる
6.どこにもないなら、つくればいい→前例を生みだす
7.「伝える」と「伝わる」は、まったく違う。→確実に伝達する
8.約束の時間が過ぎるほど、信頼は失われていく。→5分前にはそこにいる
9.服装は、いちばん外側のあなただ。→第一印象を大切にする
10.オフィスは、その会社の表現のひとつだ。→環境にこだわる
11.本を読め、時代を読め、空気を読め。→感性を澄ます
12.努力は、ある日、実力に変わる。→自分から学ぶ
13.して欲しいことを、してあげられる人になる。→思いやる
14.「ギブ」が先。「テイク」は後。→Give & Takeを忘れない
15.ゴールは、スタートになっていく。→前進しつづける
Creator’s Eye ジョイントセンター株式会社 / クリエイティブディレクター 原 成光氏
= アマナとの出会いとその関係性 =
一番最初にアマナさんを手掛けたのは1981年です。今思えば、代表の進藤さんは先見の明がありました。今でこそ、倉庫をリノベーションして新しい空間を作ることは一般的になりましたが、当時は聞いたことがなかったです。進藤さんが見つけてきたワンフロアー50坪・2階建ての元タイヤ倉庫を、スタジオとオフィスにリノベーションしました。倉庫を選んだのは、写真を撮るのに天井の高さがないと写真が思うように取れないからでしょう。1階がスタジオ、2階がオフィスということで、まずは進藤さんたちのリクエストを聞き出しました。
オフィスが完成すると、そこから非常に業績が上がりました。その時の進藤さんのお話を今でも憶えています。「空間っていうのは予想以上に自分たちのイメージアップに繋がり、社会に対して強い影響力を与える。今までと同じものを同じように撮って提供していたはずなのに、空間を変えてから更に仕事がやりやすくなった。また、自分たちは何も変化していないのに、空間が変わって新しいオフィスに移った途端に、自分たちが変わる前に周りの人たちの見方が変わった。これは自分たちも変わらなければ。」と。
オフィスが完成してから1年も経たないうちに、隣の土地も借りて「アネックス」を作る計画がスタートしました。スタジオの他に、打合せや食事などができる多目的フロアを作りました。多目的フロアは、錆びた梁やレンガを塗装した壁。古びた良さのある、落ち着いた佇まいにデザインしました。それが、いざ稼働してみたらスタジオだけでなく、多目的フロアも撮影に使わせてほしいというお客様のご要望が多く、結果として多目的フロアもスタジオとして使えるようにしました。ひとつの世界観を持った空間があると、それは背景として全部使えるのだなと勉強になりました。
1981年からこれまで、空間づくりを通してアマナさんの成長に伴走させていただいてきたことから、アマナさんは僕たちをベストパートナーと思ってくれていると感じています。アマナさんは完成したオフィス空間を、より良く活かして、進歩し続けていますから、僕たちも常に勉強させてもらえるパートナーとして非常に尊敬しています。
= オフィス作りにおいて大切にしている考え =
「コンセプトありきでスタートするんでしょ?」とよく言われるんですが、意外とそうではないんです。でき上がってみて感じたものがコンセプトでいいんじゃない?という感じなんです。コンセプトを考えるより、もっと具体的な要望を聞いたり、想いを確認したりして、それを組み立てていくためにはどうしたらいいかということを考えます。そして、平面プランや色味・素材感を検討するんです。本当は、「実はこういうコンセプトがあってね」と言いたいんですけどね(笑)実はそうではないんですよ。でも、僕はそれでいいと思っています。
ですが、コンセプトが無いとは言え、気にかけていることが全くないかというとそうではなくて、規模が大きくなればなるほどあまり権威的に作らないということを心がけています。立派になると、豪華で華やかなオフィスを作るように思われがちだけど、僕はそういう風にはしない。むしろ、素朴で控えめなオフィスを作ります。なぜなら、会社というのは世間からお金をもらって大きくなる訳だから、そういう人たちのことを考えたら、「どうだ!」みたいなのは必要なくて、あくまでも、空間の見え方は“謙虚”にあるべきだと思うんです。だから、親しみが持てるような、あまりお金をかけているように見えないような佇まいを作ることを心がけます。
そして、特に大切考えていることは、“フォーマル感”と“カジュアル感”のバランスです。ファッションに例えると分かりやすいと思うのですが、黒いスーツを着てネクタイをビシッと締めていたら、初めて会うときに緊張しますよね?でもラフな格好だと肩の力が抜けるというか。空間もそうでありたいのです。その方が話も打ち解けるし、自然とコミュニケーションも生まれてきます。だから、“カジュアル感”というのは大切なのです。しかし、“カジュアル感”が強すぎると、だらしない方向に向かってしまいます。程よい“フォーマル感”と、程よい“カジュアル感”をいかにミックスするか、このバランスが難しいところだと思います。
今までは、オフィスという場所があれば仕事ができました。でも今は、パソコンがあればどこでも仕事ができるようになってきています。だからこそ、こらからのオフィスづくりには、人と人とのコミュニケーションが大切なのです。コミュニケーションがないと、社員も成長していかないから、会社はダメになります。会社の成長は社員の成長だということを僕たちはいつも頭に入れながら、空間を作っています。コミュニケーションが生まれるオフィス作りは、“フォーマル感”と“カジュアル感”のバランスが大切だと考えています。
= 苦労した点について =
特にないですね。きっと考えると何かしらあるのだろうけれど、ないと言ったのは、僕たちのモノの作り方はこう考えなければいけないと言い聞かせているものがあるのです。極端に細長かったり、とんでもないところに柱が立っていたり「なければいいのに」とマイナスに考えていると、自分が納得できるような良いものはできないのです。でも、「あって良かった」とプラスに考えると、逆にそれを活かそうと一生懸命考えます。そうすると、「あれがあったからこれができたんだ!」という風に、コロッと良い空間に変わります。それを僕たちは何度も経験しています。だから、嫌だなと思ったとしても、最後には良い空間が完成するので、終わった頃にはもう忘れているのです(笑)。
= 家具を選ぶ時のこだわり =
既製品家具は、どれもメーカーの個性が強く出ているので、既製品家具を使う場合は、なるべくメーカーの個性を感じさせないものを選ぶようにしています。そして、なるべく一つのメーカーで埋め尽くさない方がいと思っています。このメーカーのこの椅子じゃなきゃ嫌だとか、これを絶対使いたいということはないです。家具を選ぶときに一番大切にしていることは、空間の目的に合うことや使い手の精神性ですね。
= 「70%で完成」という考えについて =
僕たちデザイナーは、設計して出来上がったら「どうぞ」と身を引くわけですよね。「どうぞ」と言った瞬間からいろんな使われ方をするわけですが、その時にそのデザインが100%完了したものを作ると、後からいろんなものが入ってきた時に全体的にケンカをすると感じています。だから、70%くらいのデザインイメージで手を止めておいて、人や家具が入った時、100%になるように心がけて作っています。
しかし、本音を言うと、100%以上でやりたい。でも、デザイナーや建築家が本当に好きなことを徹底的にやり始めると、そこに生活しようと思った人は生活し辛くなってしまう。ところが、一歩引いてデザインすると、住みやすい空間になります。
自分の想いを150%、200%投入したい。これはクリエイターとしては当然のことです。でも、150%、200%の空間を作っても誰も入らないとか、そのまま建て壊しになるとかそういうこともよくありますし。何が正しくて何が正しくないかは、もうそれぞれの考えることだと思います。
= 「何年経っても飽きない空間作り」をする上でのこだわり =
デザインのことだけを考えているわけではなく、人が生きることとか、その意味の楽しさだとか、生活の中で一つ一つ積み重ねることの大切さだとか、そういう「人が生きる上で身近なこと」を形にすることを考えています。だから、変わったことをやろうという意識はないです。使い手の立場になって考えたり感じたりしたことを形にしているだけです。
僕は若いデザイナーによく言うことがあります。「自分が感じなかったらデザインできないだろ」と。使い手の立場になる感受性を持つためには、いろんなものを敏感に感じとることが必要です。常に何かに自分の気持ちが引っかからなくてはいけないと思うのです。
1988年に竣工したT3-1Fが未だに当時のまま残っているのは、僕が思う「人が生きる上で身近なこと」を形にしたからだと思っています。T3-1Fは会議室やカフェなど、用途を限定したものを多く作ったのにもかかわらず、使い方を何十回も変えています。こうして、内装を変えるのではなく、使い方を変えて同じ空間を長く使ってもらえているのは、本当に嬉しいことです。
空間の中を、交差点のように人が行き交ったり、挨拶したりするコミュニケーションが大切だから、アマナさんにもそういう場を作りました。コミュニケーションは昔も今も変わらず大切なこと、ですから。