インターネットにおける「ものづくり企業」として成長を続ける『株式会社ドリコム』。2001年11月に有限会社ドリコムとして設立、その2年後に株式会社として組織変更を果たした同社は、現在ソーシャルゲーム事業、ソーシャルラーニング事業、広告事業、メディア事業という4事業をコアビジネスとして活躍している。IT企業ではあるものの、コミュニケーションを軸としており、様々なコンテンツをソーシャル化することで、1人で行っていたことを誰かと一緒に何かをする楽しみや面白みに変え、新たな価値を創造するコンテンツを提供している。今年11月には、スマートフォン向けの英語学習アプリ「えいぽんたん!」が第11回「日本eラーニングアワード」にて日本e-Learning大賞を受賞したり、音楽ストリーミングアプリ「DropMusic」が500万DL突破したりと、ゲームのみならずITの力を最大限に活用させた取り組みが特徴的だ。今回、そんな新しいものを生み出す創造の場であるオフィス環境づくりにかける思いを、執行役員 廣瀬敏正氏より伺った。
なぜオフィス環境に投資したのか
ドリコムは「with entertainment」を存在意義としており、それは「カレーライスとみかん」というたとえ話で受け継がれている。カレーライスを食べに行った店で、思いがけずみかんをサービスされたらおいしさに加えて喜びも大きい、という話から「質の高いサービスを提供することは大前提で、その上で多くの人々の期待を超えていこう」という精神を企業として大切にしている。期待を超えるサービスを生み出す現場の環境作りとは。
廣瀬氏:例えばアプリをリリースするのに、1人で開発を行うということはほとんどないんです。要はチームワークなので、「人が集まってきてものづくりをしている」ということが非常に大切で、そこで大切になってくるのはコミュニケーションなんです。いいアウトプットをするためにいいコミュニケーションを発生させたいので、そのためにハード面で様々な仕掛けをしているということですね。ものづくりや発明の場所であることを無意識にその環境にいることで刷り込ませるというか、自然とそういう感覚が育っていくような仕掛けをしています。会社が大切にしている考え方というのをオフィスが体現しているということに近いですかね。オフィスに関しては会社設立当初からこういったスタンスで来たということではなく、徐々に企業として成長していく中でしっかり環境面にも投資していこう、という方向になりました。
例えばエントランスにあった受付電話ひとつとっても、普通だとあんな電話置かないですよね。あえて海外の電話っぽくしているんですけど、お客様が弊社にいらして一番先に会うのってこの電話なんですよね。最初にドリコムという会社を感じていただける場なので、そういうところでも期待を超えていこうと考えています。
オフィス環境投資後の変化や反響
2012年、高田馬場から目黒雅叙園横にある目黒アルコタワーに移転をしたドリコム。エンジニアの多い同社では、開発者の会議の参加時間が極力少なくなるように働きかける動きがあったり、社内で積極的に勉強会が開催されたりと、社内外のコミュニケーション活性化を目的としたオフィス環境作りが意識的に為された。その後どのような反響や変化があったのだろうか。
廣瀬氏:コミュニケーションがよりスムーズで活発になったと思います。以前は2フロアに分かれていたり、隣のビルにサテライトの事務所があったりして、物理的に分断していたのでコミュニケーションがやや取りづらいということがありました。今はワンフロアなので、ハードで色々増えたものもありますけど、コミュニケーションが取りやすい環境になったということが結果として最も大きいのではないかと思いますね。先日も13周年を迎えまして、400名近くがカフェに集合しました。セミナールームを開け放って、終わってから全員で懇親会ができるようになったのは感慨深いですね。
採用面でも反響が大きいのではないでしょうか。面接に来られた方の中には、カフェでみんながゲームをやっているとか、意外と年齢層が若いとか、ラフな服装で仕事をしているんだ、などという驚きの声をよく聞きます。カフェを作ったことで社員の日常風景をリアルタイムで見てもらえるようになり、結果的に採用にも繋がっているのではないでしょうか。
またオープンな環境なので、お客様にもどういう会社なのかということを感じて頂けて、いい雰囲気ですねと言って頂けることが多いです。よく勉強会なども実施しているのですが、ここのオフィスを開放することによって皆さんに使って喜んで頂けて、IT業界全体の活性化に少しでも貢献できればいいと思います。わざわざ施設料金を取って貸し出すのではなく、無料で貸して使って頂けたらそれでいいのではないかと。先日も学生向けのイベントをセミナールームとカフェで開催しました。様々な勉強会やイベントを開くことが多くなったので、社内外の情報が集まり、社内外のコミュニケーションが以前よりも活発になってきたと感じています。
社員の期待を超えるオフィス
社員にとっての「働きやすい環境」は、仕事の質に直結すると考えている同社。社員一人一人が自分にとって最も働きやすいと思う場所を選ぶことと、ハード面がコミュニケ―ションを後押しするような環境にするために、社員にどんなオフィスがいいかヒアリングをしたりアンケートを取ったりもしたのだとか。そんな同社ならではの、社員の期待を超えてくるオフィス環境とはどのようなものなのか。
廣瀬氏:実は社内にカフェを作ってしまうというアイデアは、社員から挙がってきたアイデアなんです。カフェがあって、そこで仕事ができたらいいよね、というラフな意見が結構多かったので、それなら作ろうということで、実現に向けて動きました。色んなありとあらゆるカフェを探して声を掛けた中で、今入って頂いているバリスタと出会いました。日本では割と少ないニューヨークスタイルのバリスタ集団がいらして、物凄くこだわってるんです。そういう方にあえて入って頂いたことも、社員の期待をいかに超えていくかというところですね。
エントランスは、デザイナーさんに外部空間をイメージした雰囲気にして頂き、非常に開放的な空間になりました。カフェとセミナールームでエントランス空間を挟むことによって、大人数でのセミナーにも対応可能ですし、可動的で使いやすい空間になっています。セミナールームの壁面は全面がホワイトボードになっており、プロジェクターや音響設備も完備しています。
また、他の特徴として会議室の部屋の名前にもこだわっています。ものづくりの会社なので、発明家にちなんだ世界の偉人の名前にしてるんです。たとえばトーマス・エジソンや、アルバート・アインシュタインなどですね。ただし「WE」という部屋のみは違います。ここには、“社員こそ、このスタンスを体現する者である”という強い想いが表れています。また、「カレーとみかん」の考えから、社内スペースのミーティングルームには「いよかん」「でこぽん」といった柑橘系の名前が付けられていて、企業理念を常に意識させる空間造りとなっています。また、集まるスペースだけでなく1人で集中したい時に使用する集中スペースも設けていて、社員がTPOに合わせて効率よく仕事ができるように場所を選べるようになっています。
社員が休憩を取れるように、リラックススペースも用意しています。男女別になっていて、中にはマッサージチェアやソファ、加湿器を用意しています。やはりデスクワークが中心なので、人目を気にせずにリラックスできる場所は必要ですよね。それも「働きやすさ」の一部ではないでしょうか。
今後取り組みたいオフィス環境づくり
ドリコムは今年設立13周年を迎えた。目黒に拠点を構えて2年目に入った同社の明るく透過性のあるオフィス空間は、まるで社員を体現しているかのように思える。カレーにみかんを1つではなく2つ3つ、更には食後のお茶までも提供するような、多くの人に驚きと喜びを与えるサービスを作っていくために、オフィス環境をこれからどう変革していく予定なのか。最後に伺った。
廣瀬氏:非常にいいオフィスが出来上がったなという感覚の一方で、実は取り組んでいることもあって、ワンフロアでコミュニケーションをとっていることとは別に、3人ぐらいでクローズな環境を作って、アパートの一室のような場所で籠ってものづくりをするということも、それはそれで刺激的な環境なのではないかと思っています。
現在、子会社は全て社外に構えているんです。社外のオフィスは3か所あるのですが、こことは全く違う特殊な雰囲気で、雑居ビルの中に5~6人が籠って作業をしています。あえて豪華ではないところで作業するとハングリー精神が出ますし、特殊な環境だからこそそれぞれのカラーが出ますよね。だからこそその会社の世界観が出るオフィスにし、そのカラーが出やすいように切り離しています。環境から入るというのも大きいですね。実験的に行っているので、もしもうまくいくようならその環境をそのままオフィスの一角に持ってくるということも考えています。
本社のオフィスの方はハード面ではこれ以上ということはないんですが、次はこの環境を最大限に活かすための社内制度を色々と考えていきたいですね。まだまだこういう会社にしていきたい、という思いはどこまでも尽きないので、そこに対しては真摯に向きあって取り組んでいきたいと思います。
Pick Up “ここが、ドリコムらしさ”
様々な社内制度が充実しているドリコム。ここでその中の幾つかをご紹介。
■マイチェア制度
デスクワークが主となるため、会社が選定した快適な機能を持つイスの中から自分に合うイスを選ぶことができる。身体への負担が軽減され、働きやすい環境を提供している。どれも座り心地がとても良く、特にデスクワークが多いエンジニア社員に大好評なのだとか。
■「アツイねカード」
社内で行われている取り組みとして、「アツイねカード」という文化があるそう。社員が“アツイ”と思ったことを書いてコルクボードに貼ると、それを月に1度社長が回収し、全て見てその中で本当にアツイという行動をとった社員に対して、社長自らお寿司券を渡していくのだとか。プロジェクトメンバーや部署メンバーと一緒にお寿司を囲むことで自然とみんなでコミュニケーションが生まれるのだという。ちなみに昨年はピザだったそうで、毎年期待を超えるためにも今年はお寿司にしたのだとか。社内コミュニケーション活性化のための大事な行事の一つになっている。
■「Startup Boarding Gate」
「これまでの世の中にない価値を若者の手で生み出す」ということを目的とした、起業を育成・支援するためのプログラム。ドリコムがアクセラレーターとして、オフィスなどの設備を提供するとともに、社員にもメンターとして協力してもらいながら、ビジネスを生み出す機会を提供する。プログラムの最後はVC(ベンチャーキャピタル)や起業家から資金調達の機会を提供、という一連の支援をしている。
「Startup Boarding Gate」の一環として「ベンチャーという働き方、起業という働き方」のイベントが先日行われ、リブセンス社長 村上氏などの有名起業家を招いてのパネルディスカッションが行われ、多くの学生が参加したそうだ。
Creator’ s Eye 株式会社DWP / プロジェクトマネージャー 土井悠氏
土井氏:ドリコム様から頂いたご要望は、事業戦略上における人員増強に耐えうる環境を求めた移転ということで、オフィス価値の最大化を目指し、次の3点に注力したいとのことでした。まず、事業拡大に伴う人員の受け入れ、そして社員の使いやすさと居心地の良さを重視したオフィス環境作り、そして最後に情報共有の強化としてコミュニケーション機能の増強という点でした。
それに対して、まず核論であるレイアウトの前に「コミュニケーション」に対する考え方を整理しました。その考え方をベースにゾーニング、レイアウトと展開していきました。ですのでコミュニケーションの種類によるエリアの考え方が実践された空間が実現されています。
大変だった点は2点あり、一つ目はオフィスビルである事による制約をクリアしながら理想の空間に仕上げることでした。具体的には排煙や防火仕様の問題です。そして二点目は、空間の完成度やユーザビリティまで細部にこだわりを持った為、インテリアやサニタリー等様々な部分に時間がかかってしまったことが挙げられます。また、家具の選定を行ったのはプロジェクト後半です。目的が決まった後に、コストを加味して選定しました。
竣工後の社員様やお客様からの評判はすごくいいと伺っています。エントランスのスペースの解放感は、他社にあまりない空間で、社外的にアピール度が高いということと、会議スペースに関しては、ちょっとしたミーティングができる場所が増えたので、チーム間コミュニケーションの強化に繋がったということと、社内外の会議室スペースを分けたことで来訪対応がスムーズになり、会議室が取れないストレスが無くなったことが非常に喜ばれています。更に、カフェスペースを積極的に使って頂いているそうで積極的に勉強会を開催されたりと、社内外の情報が集まる理想的な空間になったと伺いました。全体的にご満足頂き、嬉しく思います。